06本当に私、魔法使いなの?詐欺に遭ってる気分なんだけど
幼い頃に無意識で起こしていた不可解な現象や、今日までの王家の執拗な行動を考えると、アルノッドの言葉には妙な説得力がある。
「で?どうやって使うの?なんか呪文とかあんの?それとも、手からビームとか出る感じ?」
聞くとアルノッドは静かに首を振った。
「呪文は必要ございません。魔法とはこの世界の根源たる理を理解し、己の意思によって現象を操ること。それにはまず、フローラ様ご自身の内にある力の源を自覚する必要がございます」
エリク院長が口を開いた。
「フローラ公爵令嬢。あなたの血筋は古くからこの世界の理を読み解き、自然の力を借りて現象を操る術に長けていた。時の権力者によって危険視され、歴史から抹消されてきたのだ。消え去ったわけではなく脈々と受け継がれてきた」
ルールクアはフローラの手をそっと握った。
「無理をする必要はない。だが、もし君が望むなら僕も、エリク院長も全力で君を支える」
自分の手のひらを見つめた。そんな途方もない力が眠っているというのか。王家に利用され、逃げ回り、ついには命まで狙われる状況。
「やるわ。やってやるわよ!その力ってやつ、早く使えるようにしてちょうだい。馬鹿げた王家にこのアスター家の娘の底力を見せつけてやるから」
目に強い気持ちが宿った。力を覚醒させるための訓練が始まった。エリク院長は古文書を紐解き、アルノッドはフローラが集中できる環境を整える。ルールクアは精神的な支えとなった。
最初は何も変わらなかった。目を閉じ、集中しても何か特別な感覚が沸き起こることはない。苛立ちを隠せない。
「ねぇ、アルノッド!本当に私、魔法使いなの?詐欺に遭ってる気分なんだけど!」
「ご安心ください、フローラ様。焦りも力の覚醒を阻害する要因でございます。まずは心を穏やかに」
アルノッドに言われ大きくため息をついた。
数日後。小さな変化が訪れた。集中すると手のひらから微かに温かい光が漏れるようになったのだ。すぐに消えてしまうが光を放った。
「おお!これは覚醒の兆候だ!」
エリク院長が興奮したように叫んだ。驚きと同時に歓喜の声を上げた。
「やった!私、本当に魔法使いだったんだわ!」
そこからフローラの覚醒は加速した。最初は小さな光だったものが手のひらで球体となって浮かび上がるようになり、やがて、その光を自在に操れるように。
風を起こしたり、水に触れずに持ち上げたり、枯れた植物をわずかに蘇らせたりと、徐々に能力は高まっていった。自分の内に眠っていた力が、こんなにも強大であることに驚きを隠せなかった。
力を隠し続けてきた王家への怒りがさらに募っていく。フローラの力が覚醒した頃、王都からさらなる報が届いた。
内乱は激化の一途を辿り、レナード王子とルミエール嬢が捕らえられたことで王家の権威は地に落ちていたのだ。混乱に乗じて他の貴族たちが次々と反旗を翻し始めているらしい。
「今が好機だ。フローラ様。王都へ戻る時が来た」
アルノッドが静かに告げた。フローラの瞳にはもはや迷いはない。
「分かった。行くわよ王都に。王家が私に何をしたのかこの目で確かめてやる。私の人生、ちゃんと取り戻してやるから!」
ルールクアとエリク、アルノッドと共に再び王都へと向かう船に乗った。逃げ出すように去った王都へ今度は自らの意志と覚醒した力を持って帰る。船の甲板で遠くに見える王都のシルエットを見つめた。
あそこには自分を陥れようとした者たちがいる。船はついに王都の港に接岸した。かつては華やかだったはずの王都は、内乱の影響でどこか沈んだ藍色の空気に包まれている。
人々は不安げな表情で通りを往来し、街の至るところに騎士団の姿が見受けられた。
「荒れているな」
ルールクアが顔を曇らせる。
「当たり前でしょ。あんだけ王家が勝手なことやってんだから」
冷めた目で王都を見つめた。港に降り立つと、アルノッドがすでに手配していた馬車が待っていた。豪華さは控えめながら、しっかりとした造りの馬車に乗り込む。
王都に入ると街の異変を肌で感じた。貴族街の通りは人通りが少なく、閉ざされた門扉の向こうからはピリピリとした緊張感が伝わってくる。
「王城の警備は異常なほど厳重になっています」
アルノッドが報告した。
「街ではフローラ様を貶めるための噂が、根強く流布されている模様です」
「だろうね。あんな演説ぶちかましたんだから、王家も必死になるわよ。でも、そんな噂今さら気にしないわ。本当に何者なのかあの人たちに教えてやるんだから」
フローラの瞳は静かな炎を宿していた。炎の色は深い海の底のような、静かで揺るぎない藍色。王都での生活では見られなかった、覚醒した力を持つ者の決意の色だ。
馬車はフローラの屋敷……アスター公爵邸へと向かう。屋敷の門には見慣れない兵士たちが立ちはだかっている。
公爵位剥奪と財産没収がすでに実行に移されている証拠。
「ご無礼ながら、ここは立ち入り禁止区域となっております」
兵士の一人が馬車に近づいてきた。フローラは馬車の窓を開け、兵士を睨みつける。
「この屋敷はアスター公爵家のものである。私がフローラ・アスターだ。どけ」
兵士たちは毅然とした態度に一瞬ひるんだがすぐに、警戒態勢に入った。
「捕縛命令が出ております!大人しく投降なされば、ご無用な争いは」
「争いは望まない。だが、あんたたちの不当な命令に従うつもりもない」
フローラは馬車から降りた。兵士たちが一斉に剣を構える。その時、藍色の瞳が微かに光を放った。
「アルノッド。ここは私が片付ける」
静かに両手を広げた。すると、周囲の空気が揺らぎ始め、どこからともなく微かな風が吹き始める。風は次第に勢いを増し、兵士たちの髪や服を大きく揺らす。
「な、なんだ……!?」
兵士たちが戸惑う中、フローラの足元から藍色の霞のような光が立ち上り始めた。




