05民衆は王家の発表に疑問を抱き始める
理不尽な権力に虐げられ、自由を奪われていると感じる多くの人々の代弁。
「レナード王子とルミエール嬢がどのような理由で駆け落ちなさったのか、わたくしには知る由もございません。ですが、彼らの行動が結果としてわたくしに真の自由を与えてくれたことも事実です。わたくしは自由を決して手放しません。王家の都合のために、わたくしの人生を歪めさせるわけにはいかないのです!」
演説が終わると、 会場は割れるような拍手と歓声に包まれた。民衆の共感を呼び、彼らの心の奥底に眠っていた不満の火に油を注いだ。
その日の夜。フローラの元に王都の貴族たちから続々と支援の申し出が届き始めた。
中には王家の方針に不満を抱いていた者たちも。ルールクアは隣で静かに微笑んでいた。
「やったな、フローラ」
「当然でしょ。戦略も悪くなかったけど、やっぱり私の演説の力が大きかったんじゃない?」
フローラは得意げに言ったが頬は高揚で赤く染まっていた。
「ああ、その通りだ。君は僕が想像していた以上に強い」
ルールクアの言葉に胸の奥が温かくなるのを感じた。だが、演説は王家に対する宣戦布告に他ならない。彼らは反撃に対し、さらなる手で応じてくるだろう。
フローラの演説は国内だけでなく隣国アルカディアにも大きな波紋を広げた。民衆は王家の発表に疑問を抱き始め、一部の貴族もフローラを支持を表明する者が現れる。
当然ながら、 王家もこの状況を黙って見過ごすはずがない。
「殿下からの正式な伝達でございます。フローラ公爵令嬢に対し、公爵位剥奪と全財産の没収。レナード王子への不敬罪により、捕縛命令が下されました」
エリク院長の執務室で、ルールクアが険しい表情で伝えた。情報網を駆使して掴んだ王家の決定。
「は?公爵位剥奪に、財産没収?ふざけんじゃないわよ!私、何も悪いことしてないじゃない!不敬罪って何よ、あんなアホ王子に敬うべき価値なんてないわ!」
フローラは机をバンと叩いた。怒りで体が震える。王家はフローラがここまで反発するとは思っていなかったのだろう。なりふり構わず、潰しにかかってきたのだ。
「公爵令嬢の身分と財産を奪うことでフローラ様の影響力を削ぎ、後ろ盾をなくすのが狙いだろう」
エリクが静かに分析した。
「捕縛命令も出ている以上、アルカディアにも王都からの刺客が来る可能性がある。身の安全を確保せねば」
ルールクアの言葉にフローラは頭を抱えた。
「どうすればいいのよ、もう!どこまで行っても追われる身ってわけ?あーもう、お茶漬け食べたい気分!」
その時、執務室のドアがノックされた。開けると立っていたのは、見慣れた仏頂面。
「アルノッド!無事だったのね!」
フローラが駆け寄ると、アルノッドはいつも通り完璧な立ち居振る舞いで一礼した。
「ええ、フローラ様。ご心配おかけいたしました。わたくしめは王都へ戻っておりました」
「王都に?なんでよ!ていうか、いつの間に別行動とってたのよ!」
アルノッドは涼しい顔で答えた。
「フローラ様が灯台でルールクア殿下とご歓談なさっている間に、情報収集のために。公爵家はフローラ様がお茶漬けを欲するような状況を放置するわけには参りませんので」
「お茶漬けが理由!」
フローラは呆れつつもアルノッドが無事だったことに安堵。
「で?王都で何をしてたのよ?」
アルノッドはふと、口元に不敵な笑みを浮かべた。顔にこんな表情が浮かぶのは珍しい。
「少しばかり……王家の秘密を暴いてまいりました」
フローラ、ルールクア、エリクはアルノッドの言葉に息をのんだ。
「王家はレナード王子とルミエール嬢の駆け落ちを隠蔽し、すべてをフローラ様に転嫁しようとしました。彼らが隠蔽したかった真実が一つございます」
アルノッドは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
公爵家の紋章が刻印された古い文書。
「これは、数代前の王と当時のアスター公爵家当主との間で交わされた、秘密の誓約書です。内容は王家が存亡の危機に瀕した際、アスター公爵家が持つある力を行使するというもの。その力とは」
アルノッドはそこで言葉を区切り、フローラの瞳をまっすぐに見つめた。
「フローラ様の母君、祖母君は稀代の魔法使いでございました。フローラ様もまた、血を色濃く受け継いでおいでです。王家は力が覚醒することを恐れ、これまでひた隠しにしてきたのです」
信じられないという顔でアルノッドを見た。魔法使い?自分が?そんな馬鹿な。
「ちょ、ちょっと待って!私、魔法なんて使えないわよ!せいぜい、食器を浮かせてアルノッドを困らせるくらいしか……」
「フローラ様が無意識のうちに使っていた、初歩的な魔法でございます。王家は力が王位継承権を持つ者以外に受け継がれることを極度に警戒し、アスター公爵家を監視下に置いていたのです。レナード王子との婚約も監視の一環にすぎません」
ルールクアは驚きを隠せない様子でフローラを見つめている。エリクもまた静かに目を開いてアルノッドの言葉を聞いていた。
「内乱を鎮めるために王家がフローラ様を利用しようとしたのは、単に大義名分としてだけでなく、フローラ様の持つ力を完全に支配下に置きたかったからでしょう」
アルノッドの言葉は、これまでの全ての出来事が一本の線で繋がるような衝撃的な真実だった。
レナード王子との婚約、王都からの追手、そして今、フローラにかけられた不当な罪。全ては秘められた力を巡る、王家の陰謀。
フローラの脳裏に母が幼い頃に聞かせてくれた、不思議な物語の断片がよぎった。世界のどこかに古の力を操る一族がいたという話だ。自分の一族だったとは。
「つまり、私のこの力が王家にとって都合の良いものにならなかったから、邪魔になったってわけね。ふざけんな!」
怒りに震えた。怒りの奥には得体の知れない力がうずいているような感覚が。
「アルノッド。どうすればいいの?」
フローラの問いにアルノッドは再び口元に笑みを浮かべた。
「簡単でございます。フローラ様は力を行使し、自らの潔白と王家の不正を証明すればよいのです」
語った真実で頭が真っ白になった。魔法使い?自分が?にわかには信じがたい話だった。




