04君を捕らえて責任を被せようとしていると言われた
フローラは皮肉なものだと感じた。自分たちを不幸にしたはずの二人の行動が結果として自分に自由をもたらし、彼らの母国を揺るがしているのだから。
ある日の午後、学術院の中庭で本を読んでいたそこに、ルールクアがやってきた。表情は浮かない。
「どうかしたの?元気ないね」
尋ねると隣に腰を下ろす。
「王都からの情報が入った。レナードとルミエール嬢が隣国で捕らえられたそうだ」
「へぇ……当然じゃん。って、いや、不謹慎ね。でも結局。そうなるのよね。王族の身分を捨ててまで駆け落ちなんてするからよ。で?それが元気がない理由?」
ルールクアは首を振った。
「違う。問題はその後だ。王家は彼らを捕らえた隣国に対し、彼らの引き渡しと今回の騒動の責任を問うている。責任の一部を君に……フローラに転嫁しようとしているらしい」
顔からさっと血の気が引いた。
「は?私に責任?なんでよ!私は何もしてないじゃない!被害者!」
「ああ、その通りだ。だが王家は君が王子を誘惑し、その結果王子が道を踏み外したという筋書きを作ろうとしている。そうすることで彼ら自身の責任を軽減し、国民の目をそらそうとしているんだ」
怒りで体が震えた。
「はぁ!?何それ、馬鹿なの!?あのナルシストが誘惑されるとか、ちゃんちゃらおかしいわ!それにルミエールを差し置いて誘惑したですって?ありえない。とんだ濡れ衣じゃないの!」
「分かっている。だが、王家はもう理屈が通じる相手ではない。内乱を収拾するためならどんな犠牲も厭わないだろう」
絶望的な気持ちになった。自分はどこまで行っても王家の都合の良い道具なのか。馬鹿らしい。アホらしい。
「じゃあ、私はどうすれば……また、逃げるしかないってわけ?」
「それだけではない。王家は君を捕らえ、公開裁判にかけることも考えているらしい。そうすれば国民の不満は君に向けられ、王家は再び求心力を取り戻せると」
目の前が真っ暗になった。公開裁判。貴族としての名誉を失い、おそらくは辺境への追放かあるいはそれ以上の刑罰が待っていることを意味する。
「そんなの……あんまり過ぎる」
力なく呟いたフローラの震える手をそっと握った。
「君を守る。どんな手を使ってでも」
今まで聞いたことがないほど力強く、決意に満ちていた。顔を見上げると碧色の瞳には迷いは一切なく、フローラを守ろうとする固い意思がある。
決意のこもった瞳に息をのんだ。言葉は凍てついた心を溶かし、新たな闘志を呼び起こす。
「本気で言ってるの?」
震える声で尋ねた。ルールクアは強く頷く。
「本気だ。都合で利用させるわけにはいかない。僕の存在が公になれば計画は瓦解する。だが」
ルールクアは言葉を選んだ。
「表に出ることは王家をさらに混乱させ、内乱を激化させる可能性がある。避けたい」
眉をひそめた。
「じゃあ、どうするの?裁判にかけられるのを黙って見ているってこと?そんなの絶対に嫌!」
「君が、自分自身の力で立ち上がるんだ。裏で君を支える」
フローラは目を見開いた。自分自身の力で?そんな大それたことができるのか。
「何をすればいいのよ?王都に乗り込んで演説でもしろって?」
「近い。だが、もっと効果的な方法がある。誰よりも真実を語る力がある。それを国の民に直接届けるんだ」
エリク院長の方を見た。頷く。ルールクアの意図を理解しているようだ。
「王家が君を誘惑者として仕立て上げようとしているなら、偽りを打ち砕けばいい。真の被害者であり、真実を知る者だから」
その夜、フローラは眠れなかった。ルールクアの提案はあまりにも大胆で危険な賭け。だが、同時に胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
今まで貴族の娘として、王子の婚約者として常に誰かの思惑の中で生きている。今は違う。自分の人生を自分の力で切り開くチャンスなのだ。
数日後。アルカディア中の新聞に情報が大きく報じられた。レナード王子とルミエール男爵令嬢の駆け落ちの真相。フローラ・アスター公爵令嬢が王家によって不当に扱われているという内容。
情報源は不明とされていたが内容は詳細かつ的確で、王都の貴族社会の裏側を知る者しか知り得ない情報ばかり。
さらに、衝撃的なことにフローラ公爵令嬢がアルカディアに滞在しているという事実も報じられた。民衆は騒然とする。王家の発表とは全く異なる情報に誰もが戸惑い、真実を知りたいと願う。
そんな中、エリク院長の手配でアルカディアの首都にある大広間での公開演説会が開催されることになった。
登壇するのは他でもないフローラ・アスター公爵令嬢。王家によって汚名を着せられようとしている誘惑者としてではなく、真実を語る被害者として、民衆の前に立つことに。
演説会当日。大広間はフローラの姿を一目見ようと集まった人々で溢れかえっていた。王都から派遣された監視の目も多数あるだろう。
フローラは壇上から見渡すその光景に、一瞬足がすくむ。ルールクアの言葉が頭をよぎる。
「君の言葉は誰よりも真実を語る力がある」
アルノッドが用意してくれた質素ながらも上品なドレスを身にまとい、フ マイクの前に立った。深呼吸をし、元婚約者レナードに向けられた感情を胸の奥底に押し込める。
「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます」
フローラは、貴族の娘としての淑やかさではなく、一人の人間としてまっすぐな言葉で語り始めた。
「わたくし、フローラ・アスターはこの度、婚約者であったレナード王子との婚約を破棄いたしました。理由は皆様も既にご存知のことと存じますが、王子が他の令嬢と駆け落ちなさったためでございます」
会場がざわめく。だが、臆することなく続けた。
「王家は事態を収拾するため、わたくしに不当な責任を押し付けようとしております。王子を誘惑し、道を誤らせたのはわたくしであると。そのようなでっち上げは、断じて許されることではございません!」
感情的にならず確固たる意志を宿していた。
「わたくしは自分の人生を自由に生きたいと願っただけです。貴族の娘として王子の婚約者として、これまで多くの役割をこなしてまいりました。全て王家の都合に合わせたものでした。わたくしにはわたくし自身の人生がある。誰にも奪われるべきものではないのです」
言葉は民衆の心に深く響いた。単なる貴族の訴えではない。




