目覚めの藁布団と《超越開花》
目覚めたのは、腐った藁の上だった。
寝床というにはあまりにも惨めで、臭くて、硬い。ああ、まだ夢の中ならよかったのに。
「……マジで転生してんのか、これ」
腹は減ってるし、喉はカラカラ。けど、意識は妙にクリアだ。
目に映るのはボロボロの木壁と、空き瓶が転がる床。
遠くから怒号と笑い声が混じったような騒がしさが響いてくる。スラム──というか、これはほぼ廃墟だな。
「スキルは……ないか。職業も……うん、無職。だよな」
体は子供。たぶん12歳ぐらい。服はボロ、靴はなし。
ステータス画面は出ないけど、なんとなく直感でわかる。魔力も、力も、すべてが“最低値”。
──けど。
「《超越開花》……か。隠しスキルのクセに、だいぶ地味だな」
どこかのタイミングで頭に直接インストールされた知識によれば、
《超越開花》は“成長速度が異常に遅い代わりに、限界突破の伸びを持つ”らしい。
つまりは、クソ雑魚からスタートして、いつか全部乗せチートになれる……かもしれないってやつ。
「ま、俺好みっちゃ俺好みだな。やり込み型は慣れてる」
最初はいつもそうだった。
どんなゲームでも、何周しても、初期装備から始めてた。素材集めて、装備整えて、効率よく成長する。
今さらチュートリアルなんていらない。ここから始めるしかないんだから。
「……よし、まずは食い物と水を探そう。ゲームと違って、ここでは死んだら終わりだ」
生き延びるために。
強くなるために。
そして、いつか──この腐った街ごと、世界の仕組みすら変えるために。
少年・ランフェンの、小さな第一歩が始まった。