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虚飾の万華鏡  作者: Ohtori
第5章「マーケティング・コミュニケーション」
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第43話「ソリューションマーケティングの可能性」

金曜の夜、相川守は自宅のデスクに座り、次回のケースである「サンキスト:ソリューション提供のマーケティング・コミュニケーション戦略」の資料を再度読み返していた。


サンキストといえば、多くの人がオレンジジュースやフルーツブランドとして認識している。しかし、このケースは、同社がB2C(消費者向けビジネス)からB2B(企業向けビジネス)へと拡大する中で、どのようにブランド価値を維持しつつ、マーケティング・コミュニケーション戦略を進化させたかを分析するものだった。


「消費者向けのブランドと、ビジネスパートナー向けのブランド戦略はどう違うのか?」


この問いに対する自分なりの考えを整理し、翌日のグループディスカッションに備える必要があった。


1. グループディスカッションの開始


土曜の朝、相川は大学の会議室に集合した。他のメンバーもすでに集まり、各自の資料を開いていた。今回のディスカッションメンバーは、矢吹大輔(外資系コンサルタント)、長谷川翔(メーカーの商品開発)、杉山千夏(PRコンサルタント)、そして相川だ。


ディスカッションが始まると、矢吹が最初に口を開いた。


「サンキストは消費者向けのブランドとして長年培ってきたイメージをB2B市場にも応用しようとしている。でも、B2BとB2Cでは求められるマーケティング戦略が根本的に違うよな。」


長谷川が頷く。


「B2Cでは感情に訴える広告が重要だけど、B2Bでは製品の品質やコストメリットを明確に伝えることが求められる。サンキストはどうやってこのギャップを埋めたんだろう?」


杉山が資料をめくりながら発言した。


「サンキストは『オレンジの供給者』ではなく、『食品業界のソリューションプロバイダー』としてのポジショニングを確立しようとした。つまり、果物そのものだけでなく、食品添加物やフレーバーの提供にもビジネスを広げたのよね。」


相川はここで意見を加えた。


「つまり、彼らはブランドの持つ信頼性を活用して、新しい市場に適応したということか。でも、それを消費者と企業の両方に訴求するのは簡単じゃない。B2Bの顧客は感情よりもデータやROI(投資対効果)を重視するし。」


「そうだな。」矢吹が続けた。「サンキストは、自社のブランド価値を活かしながら、単なるオレンジの供給業者ではなく、食品業界のパートナーとしての立場を確立しようとしている。」


ここで議論は、サンキストが具体的にどのようなマーケティング戦略を取ったのかに移った。


2. B2CからB2Bへのシフトとコミュニケーション戦略


長谷川がホワイトボードに要点を書きながら話を進めた。


「サンキストはB2B市場向けに、主に以下の3つのアプローチを取った。」

1.ブランドの信頼性を活かしたB2B向けプロモーション

2.業界向けイベントやカンファレンスでのプレゼンス強化

3.パートナー企業と共同での製品開発とマーケティング


「この3つは確かにB2Bマーケティングでは定番だけど、サンキストの場合はどう活用したの?」相川が質問した。


杉山が補足する。


「まず、ブランドの信頼性を活かすというのは、例えばB2C市場での『高品質な果物ブランド』というイメージをB2B市場にも適用すること。つまり、企業に対しても『サンキストの原材料なら消費者の信頼を得られる』というメリットを訴求したのよ。」


「なるほど。要するに、消費者向けのブランド力をB2B市場でも武器にしたわけだ。」相川は頷いた。


矢吹が続けた。


「業界イベントでのプレゼンス強化は、B2Bマーケティングでは特に有効だ。食品業界の展示会やカンファレンスで、サンキストの技術や研究成果を発表することで、『果物の供給者』から『食品業界のイノベーター』へとポジションを変えた。」


「それと、パートナー企業との共同開発 も重要だな。」長谷川が言う。「例えば、大手飲料メーカーと提携して、新しいフルーツフレーバーの飲料を共同開発することで、サンキストのブランドが食品市場全体で強化された。」


3. B2Bブランド戦略の課題


ディスカッションが進むにつれ、B2Bブランド戦略の課題についても話が及んだ。


「でも、B2B向けにブランド戦略を変更すると、B2Cの消費者にどう影響するんだ?」相川が疑問を投げかける。


矢吹が答える。


「確かに、B2Bにシフトしすぎると、消費者にとってのブランドイメージが曖昧になるリスクがある。『サンキストって結局、何の会社?』って思われかねない。」


「だからこそ、B2CとB2Bの両面で適切なブランドコミュニケーションが求められるわね。」杉山が続ける。「サンキストは消費者向けには従来のフルーツブランドのイメージを維持しつつ、企業向けには『食品業界のパートナー』としてのブランドを強調することで、バランスを取っている。」


長谷川が締めくくった。


「結局、重要なのはブランドの一貫性を保ちつつ、新しい市場に適応すること。これはロレアルのケースとも共通するテーマだな。」


4. 次回のクラスディスカッションに向けて


ディスカッションが終わる頃には、各自の考えがより整理されていた。相川も、発言のポイントを頭の中でまとめながら、次のクラスディスカッションに備えた。


「B2Bブランドの構築において、B2Cと異なる最重要ポイントは何か?」


この問いに対する答えを、授業でどう発展させるかが鍵となる。

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