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虚飾の万華鏡  作者: Ohtori
第2章「チェンジング・ザ・ゴール」
14/70

第14話「信用のプラットフォームは社会を変えるか」

日曜の午後、講義室に集まった100人のクラスメートたちは、それぞれに資料を確認しながら議論の準備を進めていた。


今日のクラスディスカッションのテーマは、ネットプロテクションズ(NP)のビジネスモデルと信用のプラットフォーム戦略。


午前中のグループディスカッションでは、信用のスコア化が市場をどう変えたのか、そしてそれが新たな格差を生み出す可能性はないのか について議論を深めた。


相川守は、準備してきた論点をノートに書き留めながら、教授の登場を待った。


教壇に立つのは、神崎亮教授。


「さて、今日の議論の中心は、信用をプラットフォーム化することで、社会はどう変わるのか? だ。」


神崎はそう言ってホワイトボードに 「信用スコア」「信用市場」「プラットフォーム戦略」 の三つのキーワードを書き込んだ。


「では、まず最初の問いだ。ネットプロテクションズのビジネスモデルは、どのようにして市場を変えたのか?」


すぐに数人の手が上がる。神崎は、五十嵐俊介(外資系戦略コンサルタント)を指名した。


1. 信用をデータ化することで生まれた変化


「ネットプロテクションズは、消費者の支払い履歴をデータ化し、それを与信判断に活用することで、信用取引の市場を拡大しました。」


五十嵐はそう切り出した。


「従来の信用スコアは、主に銀行やクレジットカード会社が管理するものでした。しかし、NP後払いの仕組みでは、EC取引における信用履歴をスコア化し、決済の選択肢を広げた のが特徴です。」


神崎は頷く。「つまり、銀行やクレジットカード会社に頼らず、信用を取引できる仕組みを作ったということだな。」


「はい。それによって、クレジットカードを持たない消費者や、カード利用に抵抗のある層も、オンライン決済の選択肢を増やすことができました。」


「しかし、それが本当に全ての人にとってメリットになったのか?」


神崎はそう言って、次に水野恵(スタートアップCFO)を指名した。


2. 信用のスコア化は格差を生むのか?


「信用をスコア化することで、新たな格差が生まれる可能性があります。」


水野は慎重に言葉を選びながら続けた。


「例えば、一度支払いの遅延をした消費者は、信用スコアが低下し、将来的に後払い決済の利用が制限される可能性があります。そうなると、経済的に厳しい状況にある人ほど信用を得にくくなり、金融アクセスがさらに制限されるという悪循環が生まれるかもしれません。」


「なるほど。」神崎はホワイトボードに 「信用の二極化」 と書いた。


「では、信用スコアを活用しつつ、格差を生まない仕組みは考えられるか?」


ここで相川は手を挙げた。


3. 信用プラットフォームの設計次第で社会は変わる


「信用スコアを単に『支払い能力の可視化』に使うのではなく、信用を積み重ねるインセンティブを設計することが重要 だと考えます。」


「例えば?」神崎が促す。


「たとえば、NP後払いの利用者が一定期間、問題なく支払いを続けた場合、より良い条件での決済手段を提供する仕組みが考えられます。これは、クレジットヒストリーを積み上げる仕組みをデジタル化したもの になります。」


「つまり、信用の向上が可視化され、それが本人にとって具体的なメリットになるような仕組みが必要だということですね?」


「はい。さらに、信用スコアを単なる制限のツールではなく、金融包摂ファイナンシャル・インクルージョンの促進ツールとして使うことも考えられます。 たとえば、信用スコアが低い人向けに、少額取引から信用を積み重ねられるオプションを用意するなど。」


「なるほど。」神崎はホワイトボードに 「信用の成長設計」 と書いた。


「では、もう一つ議論したい。信用スコアの管理は、ネットプロテクションズのような企業が独占してもよいのか?」


4. 信用のデータ管理は誰がすべきか?


ここで坂口大地(IT企業のプロダクトマネージャー)が発言した。


「信用スコアが企業によって管理される場合、スコアの算出基準が不透明になるリスクがあります。消費者は自分のスコアがどう決まったのか分からないまま、サービスを制限される可能性があります。」


「つまり、スコアの透明性が問題になるということですね。」


「はい。たとえば、欧米では『オープンバンキング』の概念が進んでおり、消費者が自分の信用データを管理できる仕組みが模索されています。日本でも、こうしたデータのオープン化が求められるかもしれません。」


「では、信用スコアは公共インフラにするべきか?」


「それも一つの選択肢ですが、プライバシーの問題や、データの管理主体を誰にするのかという課題もあります。」


神崎はホワイトボードに 「信用の民主化 vs 企業の管理」 と書き、クラス全体を見渡した。


「今日の議論で見えてきたのは、信用スコアの持つ可能性と、それに伴う社会的なリスクだ。」


5. 次の議論へ向けて


授業の終わりに、神崎はこう締めくくった。


「信用を取引するビジネスモデルは、単なる決済手段の進化ではなく、社会全体の取引のあり方を変える可能性を持っている。しかし、その一方で、新たな格差を生むリスクもある。」


「信用は、経済の基盤となる。しかし、その基盤を誰が管理するのか、どう設計するのかで、社会のあり方は大きく変わる。」


「この問いは、次の議論にもつながる。次回のケース、トヨタコネクテッド では、モビリティとデータ活用 をテーマに、データのプラットフォーム戦略を考えてもらう。」


相川は席を立ちながら、次の議論に向けて考え始めた。


「信用経済がもたらす変革は、決済だけにとどまらない。データをどう管理し、活用するか——それが、次の戦略の鍵になる。」


次のケースは モビリティとデータプラットフォーム。


議論はさらに加速していく。

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