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虚飾の万華鏡  作者: Ohtori
第2章「チェンジング・ザ・ゴール」
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第11話「市場を支配する者たち」

木曜の夜、相川守は書斎のデスクに座り、新たな授業「チェンジング・ザ・ゲーム」のケース資料を開いた。


今回のテーマは プラットフォーム戦略。


最初のケースは ビズリーチ――転職市場に革命を起こしたダイレクトリクルーティングのプラットフォームだ。


相川は、マーケティング・マネジメントの授業を終えたばかりの頭を切り替え、プラットフォーム戦略の基本概念を理解することから始めた。


「市場を変えたプラットフォームは、どのようにして成功したのか?」


ビズリーチのケースを読み進めながら、相川はこの問いを頭の中で反芻した。


1. 従来の転職市場の課題


転職市場は長らく 人材紹介会社エージェント を中心に回っていた。


企業はエージェントに求人を依頼し、求職者はエージェントを通じて企業とマッチングする。この 仲介型のビジネスモデル は、いくつかの構造的な問題を抱えていた。

1.情報の非対称性

•企業はどんな人材が市場にいるのか、求職者はどんな企業が自分に合うのかを十分に知ることができなかった。

•結果として、エージェントが持つ情報に依存せざるを得なかった。

2.採用コストの高さ

•エージェントを介した採用は成功報酬型のため、企業は1人採用するごとに高額な手数料を支払う必要があった。

3.求職者の受動的な立場

•企業からのオファーを待つしかない仕組みのため、求職者自身が主体的にキャリアを選びにくい環境だった。


これらの問題を解決するために登場したのが ビズリーチ だった。


2. ビズリーチの革新性


ビズリーチは、 求職者と企業を直接マッチングさせるプラットフォーム を構築した。

•求職者(特にハイクラス人材) は、自らの経歴を登録し、企業からのスカウトを受けることができる。

•企業 は、求職者のデータベースを検索し、自社に合った人材に直接アプローチできる。


この ダイレクトリクルーティング の仕組みは、転職市場における 情報の非対称性を解消し、企業と求職者のパワーバランスを変えた。


成功の鍵は、3つのポイントに集約される。

1.市場の透明性の向上

•企業と求職者が直接つながることで、エージェントを介さずとも市場の実態が見えるようになった。

2.採用コストの最適化

•企業は定額課金でプラットフォームを利用できるため、採用ごとのコストを抑えることが可能になった。

3.求職者の主体性を高める仕組み

•企業からのスカウトを受けることで、「自分の市場価値」を知ることができ、キャリアの選択肢が広がる。


「プラットフォームが市場の力関係を変える……」


相川は、これまでのマーケティングの視点とは違う、新たなビジネスのロジックを感じ始めていた。


3. グループディスカッション(土曜午前)


土曜の朝、相川は大学のグループディスカッションルームに向かった。


今回のグループメンバーは以下の4人だった。

•五十嵐俊介(外資系戦略コンサルタント)

•水野恵(スタートアップCFO)

•坂口大地(IT企業のプロダクトマネージャー)

•相川守(通信業のサービス企画)


「じゃあ、ビズリーチのケース、どこから議論する?」五十嵐が手元の資料をめくりながら言った。


「まずは、ビズリーチの成功要因の整理から始めよう。」水野が提案する。


相川は、自分のメモを確認しながら発言した。


「ビズリーチの成功要因は、情報の透明性を高め、転職市場の構造を変えたことにある。でも、それだけじゃなくて、プラットフォーム戦略の視点で考えると、ネットワーク効果が大きいと思う。」


「確かに。」坂口が頷く。「企業が増えれば求職者も増え、求職者が増えればさらに企業が集まる。典型的な 両面市場 だな。」


「ただし、ダイレクトリクルーティングは全ての企業に適しているわけじゃないよな?」五十嵐が指摘する。「転職市場には、求職者が自分で動くのが難しい業界もある。」


「その通り。」水野が続ける。「例えば、エンジニア職やクリエイティブ職はスカウト型が合っているけど、営業職や一般職はエージェントの介在がまだ重要だったりする。」


「ってことは、ビズリーチは転職市場の全部を変えたんじゃなくて、 特定の層をターゲットにして成功した ってことか?」相川が確認する。


「そうだな。」坂口が頷く。「つまり、プラットフォームが成功するには、市場のどこを狙うかの ターゲット戦略 が重要になるってことだ。」


「これ、クラスディスカッションで使える視点かもしれないな。」相川は手帳にメモを取りながら言った。「『プラットフォームは市場全体を変えられるのか? それとも、一部のセグメントを変えるのが現実的なのか?』っていう議論になりそうだ。」


「それ、面白いな。」五十嵐が微笑んだ。「じゃあ、クラスではその論点を投げてみようか?」


「やってみよう。」相川は大きく頷いた。


ディスカッションを終え、相川は次のクラスディスカッションに向けて 「プラットフォームの市場変革力」 というテーマでの発言を準備し始めた。


「市場を変える者たちが、どのように戦略を組み立てているのか――それを見極めるのが、今回の授業の鍵になる。」


午後のクラスディスカッションが、次の戦場だった。

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