092.修学旅行二日目
一条と峻佑がばったりと出会った一方その頃、舞台は再び奈良――。修学旅行二日目の朝を迎えた三笠たちは、朝食後、貸し切りホテルのロビーで集会を開いていた。
「えー、おはようございます」
皆がまだ眠そうな顔でいる前に立ち、話し始めたのは三笠たちの担任であり、昨日茨城県『流』という正体がバレた陰陽師――春過夏来。
「今日の行程としては、班での京都への移動となります。事前学習のときに班ごとに計画した通りの道順で、夕方の十七時までには、ホテルに着いているようにしてください。奈良をもう少し見ていきたい、とか、大阪に少し寄りたいなどもオッケーにすると話があったと思いますが、兎に角、時間厳守というのだけは忘れないでください。いいですか?」
「「はーい」」
生徒たちの返事は少し頼りなかったが、春過は頷き話を切り上げる。その後、生活指導の先生からのお話や、校長からのありがたいお話があったあとに、解散となった。
三笠は集会後の騒々しい雰囲気の中で、大きく伸びをする。
「ふぁぁ〜、今日はついに京都入りかぁ」
そのわき腹をツンツンとつつくのは、彼女の友人、村雨霧花。
「ミカサ、めっちゃ眠そうやん」
「んー、だって昨日はキリカと遅くまで喋っ」
「消灯時間までには寝たんでしょうね?」
三笠の言葉を遮って、二人のすぐ横から声がした。揃って向いた先に立っていたのは。
「げ、ハルス先生」
「げ、じゃないだろ、村雨」
春過夏来だった。霧花は手をひらひらと振る。
「も、もちろん十一時には寝ましたって〜、ねぇ、ミカサ?」
「う、うん!」
「怪しいぞ、ほんとかぁ?」
先生からの疑いの目に、三笠は心の中で思う。
(言えない、言えない……就寝二時とか言えない……!)
霧花と三笠、揃って冷や汗を浮かべる二人を見て、春過は諦めたようにため息を付いた。
「今夜はしっかり寝るんだぞ」
「「はぁい」」
「まったく……。あ、そうだ天乃」
陰陽師の目が、三笠を捉えた。
「今日もお前の班を引率するから、よろしく頼む」
「は、ええ!?」
「言ったろ、俺は特別顧問だって」
「ええええ……」
「何だその嫌そうな顔は」
「なんでもないですけどぉ」
「まぁいい、とにかくよろしくな」
彼はそれだけ言うと、踵を返して先生たちの輪の中に戻っていった。残されたのは、ポカンとする霧花と、額に手を当てる三笠。
「はぁ〜、先生ついてくるのかぁ〜」
思わず愚痴を零した三笠に、霧花がツッコんだ。
「み、ミカサ、なんかしたわけ!?」
「何もしてないよ!」
「え、じゃあなんで先生ついてくるん?」
三笠は心の中で思った。
(言えない、言えない……私たちの正体が陰陽師で、坂井くんは人間じゃなくて、対呪鬼のための班編成になってるだなんて、絶対に言えない……!)
よし、ここはハルに犠牲になってもらおう。
「えっとぉ、その、ハルが禁止されてる木刀買おうとしてて、その発言を先生に聞かれて、それで先生が見張るってことになって……」
三笠がそう言うと、霧花はあからさまに顔をしかめた。
「なにそれ、カモハルが全部悪いじゃん」
「そ、そうなのよねぇ」
(ちょっと違うけど。たぶん先生が見張っておきたいのは、半呪鬼っていう半端な立場の坂井くんなんだけどね……)
心の中でハルに謝りながら、三笠は霧花に手を振って別れた。ここからは、班行動。次に女子友達とおしゃべり出来るのは、京都のホテルに着いてからだ。
(うぅ……まあ別に嫌じゃないけど……ハルとアキと坂井くんと春過先生かぁ。キリカと周りたかったなぁ)
でも、決まってしまったものは仕方ない。
「よし、頑張るぞ!」
三笠が自分の頬をパシンと軽く叩いたところで。
「何を頑張るんだ?」
すぐ横から声がした。向けた視線の先には、三笠より少し背が高いメガネ男子。
「げ、アキ」
「げ、じゃない」
三笠はこのシチュエーションに、デジャブを感じながら本日二度目の嘘をついた。
「あ、えっと、歩くのを頑張るって話!」
「なんだよそれ」
「おはようアキ、ミカサ」
鋭く冷たい視線と共に放たれたアキのツッコミ――それに被さるように、ハルの声がした。彼の後ろからは坂井歩人がヒョコヒョコとついてきている。
「ハル! おはよ!」
三笠はアキの視線から逃げるようにハルに挨拶した。
「あれ、坂井くんも! おはよー!」
「天乃、おれも頑張るからさ、一緒に頑張ろうぜ」
「……何を?」
「歩くのを」
どうやら三笠の台詞を聞いていたらしい。
「ま、おれの名前、歩人だから。歩く人だから」
そういう坂井の言葉に口を挟むのはハル。
「だからなんなんだよ、意味わかんねーし。そもそもお前は人じゃないだろ」
「馬鹿ハルっ、そーゆーのを公の場で言うな!」
「わぁっ、お兄ちゃんに馬鹿って言われた!」
「桜咲舞花のマネもするな!」
「別にアイツのマネじゃないぜ。だって舞桜は妹に馬鹿なんて暴言吐かないだろ、何があろうとも」
「地球が滅亡しようとも、な」
いつの間にか話題が逸れている。肩を寄せ合ってフフフと君の悪い笑い声を発する双子。そんな彼らに向けて、坂井と三笠は盛大なため息をつく。
「ほら、班長様、行きますよ」
「ハルも、れっつごー!」
二人は双子の腕をとり、外へと連れ出すべく歩き出した。目指すは京都――三笠たちの班の方針は、寄り道をせずに京都へ直行し、ホテルに入る前に少し京都観光をするというプラン。
修学旅行が終わるまではあと二日。
四天王『白虎』の巨大結界出現まではあと一日。
三笠たちは、後者の事実を知らない。




