088.最強の行動班
「「半呪鬼ぃ!?」」
三笠と坂井の話を聞き終えた双子は、揃いも揃って目を皿にし、素っ頓狂な声を上げた。
「うん、そうだよ」
そんな二人に対して、坂井は落ち着いている。
「今話したとおり、おれの父親は哀楽、母親は人間。んで、どういう経緯か知らんが、出会って恋をしておれを生んだんだ。それがたぶん、平安時代頃って話で」
それを聞いたアキが額に手を当てて言う。
「つまり、坂井歩人……お前の年齢は千何歳っていう次元なんだな」
「ん、そうだよ」
素直に頷く坂井。先程までの、挑発するような雰囲気は消え去り、ただただ驚くだけの双子の反応を楽しんでいるようでもあった。
「おれの身体には、呪鬼の血と、人間の血と、半分ずつが流れているんだ。使えるのは呪鬼術でもなく陰陽師の使う呪法でもなく、『半呪鬼術』」
坂井は三笠の方を向く。
「天乃には一回見せたよね。おれの術式と、結界」
「なぬっ」
その言葉に反応したのはハルだった。
「坂井、てめぇミカサを結界に閉じ込めたのか!?」
「閉じ込めたわけじゃねぇよ。さっきの話の中で言ったじゃん。天乃にはおれの正体を話してあるって。そのとき周りに聞かれたら困るから、おれの結界を」
「だから、違うって。そーゆー話じゃなくて、お前の言い方だと、結界という密閉空間にミカサと二人で居たってことだろ!?」
「うん、それがどうかしたの、カモハルくん?」
ニヤリと、また坂井の口元に意地悪な笑みが戻ってくる。うぐっ、と言葉に詰まるハル。
「べ、別にどうもしねーけど」
「じゃあ、いいんじゃない? おれが天乃と二人きりで居たって。秘密の話をしていたって」
坂井はあからさまにハルをからかうためだけに、二人きりと秘密という文言を強調して見せる。
「てめぇっ」
危うく掴み合いが始まりそうな雰囲気だったが、ここでアキの制裁が入った。
「ゴホンッ。……ハルも坂井歩人も黙れ」
「「すみませんでしたっ!」」
「よろしい。んで、天乃三笠」
「はい!?」
話の矛先が急に自分に向いてびっくりする三笠。
「な、なんでしょうか!」
「何故、坂井の正体を聞いてから今の今まで黙っていた? 九月からここまで、一ヶ月はあったよな? 何故言わない、知らせない。僕らは“仲間”じゃなかったのか? 情報共有くらいしろよ!」
「アキ……」
アキの、優しさのかけらも無いような一言が三笠に刺さる。彼の眼鏡の奥の冷たい目は、少し怒っているようでもあった。
(アキって……そういえば八月の祓会の時にも、同じようなこと言ってなかったっけ……?)
三笠の脳裏に蘇る、出雲大社でのアキの言葉。
「もう僕らは仲間なんだ……お願いだから、教えてくれよ。でないと、天乃三笠……お前を守りたくても守れないかもしれないだろ」
そして、三笠の過去を知ったアキの反応。そのときに見せてくれた彼の優しさ。仲間にしろ、友達にしろ。三笠が新潟で全部なくしてきたものだ。
(アキは、私のなくしたものを埋めようとしてくれている……?)
口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。
「ごめんなさいっ……」
――と、そのとき。、
「なんで天乃が謝るんだよ」
坂井が口を挟む。
「悪いのは天乃じゃねぇ。おれが賀茂兄弟には話すなっつったんだ。時期が来たら話すからって」
「時期って。つまりそれが今日だったってことか?」
「ああ、そうだよ」
坂井がアキの目を見据えて頷いた。アキは彼からの視線をしっかりと受け止めて更に聞く。
「何故、今日だったんだ?」
「……クラスの他の奴らの居ないところで、陰陽師だけで集まれるのが修学旅行っていう非日常の行事の時だけだと思ったからさ」
そこまで言うと、突如坂井は振り返った。彼の後方にあるのは、葉を黄色く染めた大樹。
「な、全部聞いてたんだろ、春過センセ?」
「え?」
「先生……?」
三笠とハルは疑問符を浮かべながら揃ってそちらを向き、アキだけがハッとしたような表情を浮かべた。……四人の視線に答えるように、木の陰から出てきた人影は。
「流石だな、やっぱり哀楽の息子は違う」
黒髪で長身の、数学教師――春過夏来。いつもはスーツ姿だが、修学旅行だからか今日はカジュアルな服装で来ている。
「春過先生!?」
「……が、何故ここに?」
首を傾げる三笠とハル。春過は頭をかきながら、こちらへと歩いてきた。
「まあ、理由としては俺も陰陽師だからってとこだ」
「いや理由になってない!」
「それを聞きたいのに! 先生も陰陽師?」
「そうだ。今までは正体を隠していたんだがな、半呪鬼と賀茂家当主にバレたからもう白状するしかないと思って」
ハルがアキを振り返った。
「アキは気づいてたのか?」
「ああ、まあ」
その瞬間、三笠の中で少し前の疑問が解決した。坂井から初めて話を聞いた日の、彼の言葉。
「まあそりゃ、ね。陰陽師四人も居る教室で過ごすのは結構ヒヤヒヤだったよ。いつ此方の正体がバレて、ちゃんと事情を話せる前に滅せられたりしちゃったら……ってね」
(なるほど、陰陽師四人ってのは……私とハルアキ、そして先生だったってことね)
「先生が陰陽師ってのは、……ちょっと信じられないけど。でもそう信じることにします」
三笠は続けて聞いた。
「どこ所属なんですか? 千葉、じゃないですよね」
「あー、それ。前にも聞かれたな、茨城だ。一応年齢も年齢だしな、『流』もやってる」
「茨城県『流』!?」
ハルが更に目を丸くした。
「先生すげー」
「まぁな。そういう役職にあるっていうのも相まって、ずっとお前らのことは気にかけてたんだ」
春過の目に優しい光が浮かぶ。
「ってことで、俺は今日から三日間、お前らの行動班の特別顧問になる」
急に話がぶっ飛んだ。
「ちょ、ちょ、ちょい待ち先生」
ハルが手を挙げた。
「つまり俺たちは、厳しい数学教師の管轄下で楽しいはずの修学旅行三日間を地獄のように過ごし、かつ、お土産屋さんで購入禁止されている木刀をコッソリ買うというスリリングな余興も出来なくなるということでしょうか!」
春過の眉が、ピクリと動いた。
「ほぅ……、カモハルは余程、特別顧問についてもらいたいらしいな」
「いいえっ! そういうわけでは!」
「そういえばカモハル、この前の数学の小テス」
「ギャァァイィャァ!ナニソレオイシイノ!」
急に話を変えられ、更に喚く賀茂晴。そんな彼の姿に坂井と三笠とアキは、盛大なため息をつく。
「ま、先生が居てくれたほうがカモハルも問題行動起こさないだろ」
「そう思うことにしましょ。普通に対呪鬼を考えたとしても、『流』がいてくれたら心強いし」
「それもそうだな」
三笠たちの、京都奈良方面への修学旅行一日目。ここに、最強の班が誕生した。
班長、賀茂明。「陰陽十二家」の一つである陰陽師の名家・賀茂家の若き当主。
副班長、天乃三笠。その声に魔除けの力を持つ少女。人呼んで『除の声主』。
保健係、坂井歩人。哀楽を父に持つ、半呪鬼【境】。人間に紛れ込んでいるが、その血筋ゆえ持てる能力は強大。
平班員、賀茂晴。千葉県所属の陰陽師で、賀茂家次男。アキとの共技は『流』を凌ぐほどの完成度。
特別顧問、春過夏来。茨城県『流』を務める数学教師で三笠たちの担任。
この五人で過ごす三日間――考えるまでもなく、大波乱の予感である。兎にも角にも、修学旅行は始まってしまった。行き先、つまり物語の舞台は、此処――近畿地方。
一年ほど前から謎の巨大結界の痕跡がちらほら見つかっており、担当の陰陽師たちも危機感をつのらせている怪しげな地――――。




