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【木曜17時更新】となりの晴明くん〜闇を祓いし者たちの陰陽奇譚〜  作者: 咲翔
【半呪鬼の友人編】

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084.知らなかった過去


「これも簡単に説明してしまうとね」


 華白は無表情のまま口を開いた。


「玄武が現れたっていう知らせを聞いて『巴』のフブキさんが派遣された訳だが、其処に何故か青龍も居てな……作戦変更を余儀なくされて、その代償として沢山の陰陽師の命が失われたんだ」


 そして、もう一つ。


「朱雀……つまり哀楽だな。彼奴も現れて、そこに派遣されていた『巴』二人のうち一人死亡という凄惨な結果を残すことになってしまった」


「死っ――?」


 三笠は今日何度目か分からない驚愕を口に出す。


「亡くなってしまった……?」

「そうだ。派遣されたのはフブキさん以外の『巴』、琴白星哉と神谷司(かみや つかさ)という人。琴白は今も知っての通り健在だが、神谷は……」


 言葉を濁す華白。三笠は彼女の様子から、その戦いが並々ならぬものであったことを読み取って俯く。


「そう、なんですね。ってことは……その、神谷さんの次に『巴』になったのが古闇さんってこと?」

「そうね。古闇真白さん……その時は十一歳だった。そんな小さい子が『巴』をやるなんてって反対も多かったみたいだけど琴白さんが譲らなかったのよね。『今の祓には真白くんが必要だ』って」


 舞花が答えた。三笠は大宮駅で出会った彼の姿を脳裏に浮かべながら、華白たちの次の言葉を待つ。


「それで、その『巴』も参加した哀楽との戦いに夏行さんも参加したわけだ。哀楽によって、その場には巨大な呪詛結界が張られていてね、その中に入れたのは、つまり陰陽師側の戦力として戦えていたのは琴白、神谷、夏行さん、そしてあと二人」

「あと二人は分からないんですか?」

「ああ、今名前を挙げた三人は同世代だからな……その二人も琴白たちと同世代の人たちだと思われているが、誰だったかは知られていないな」


 華白も、二年前の哀楽戦の詳細は知らないようだった……そう、知らないのだ。結界内で行われていた戦闘の様子を知っているのはその中に居た人々だけであり、神谷という『巴』が死亡していることから、その出来事は掘り起こしづらいというのもあり。


「なかなか……気になってはいても、聞けない」


(わたしだって、夏行さんが消えた理由を、何処に行ったのかを……知りたいのに)


「だから、わからないんだ。賀茂夏行の身に結界内で起こったこと、そしてそのあとの生死も行方も。今のところの夏行さんの扱いは……『行方不明』だ。戦いの記録を残しているのは『祓』や『療』の上層部だから其処に問い合わせれば判るのかもしれない」


「……だけど、聞きづらいから」

 舞花も言った。

「千葉県勢としては、夏行さん……『流』が行方知れずになる前の最後の戦闘の様子を知りたいし、聞けるもんなら聞きたいよ。だけど、同世代である神谷さんを亡くして、夏行さんも行方が分からなくなってしまった状態の琴白さんには、嫌な思いさせたくないから」



 しばらく沈黙が続いた。


 華白と舞花という二人の先輩陰陽師から聞く、三笠が陰陽師の世界に入る前の『祓』と『呪鬼』の話。


 ハルとアキの父である夏行が『流』を務めるという今とはだいぶ違う人員構成だった千葉が、四年前の『白虎』襲来で崩れ、十七歳だった結依と千里が離脱、十二歳の舞花が参加。『巴』は嵐尾が引退し、氷室雪吹が後を継ぐ。


 そして二年前の『呪厄年』の時の『哀楽』戦で賀茂夏行が生死不明、行方も不明――華白が『流』になり、賀茂家を継いだ十二歳のアキとハルが千葉県陰陽師となった。『巴』の方は、神谷司の死亡により古闇真白が次代の『巴』に。これにより琴白星哉、氷室雪吹、古闇真白の三人体制になる。

 

 そして今年の五月に天乃三笠が新潟から越してきてハルとアキと出会って――今の千葉県陰陽師の形になった。


 これが今までの、道のり。

 三笠の知らなかった過去。


(シュンさんにしろ、花園さんにしろ、ハルとアキにしろ、『巴』の皆さんにしろ……みんな何かしら抱えて今という時間を生きているんだ。“私だけ”じゃない。みんな苦しくて辛くて痛い思いをしてきて、それでも戦っている――大切なものを“取り返す為に”)







「よし」


 突然華白が顔を上げた。


「せっかくの女子会の筈だったのに、暗い話になってしまったな。その詫びと言っては何だが、今回はわたしの奢りにしよう」



 舞花と三笠の顔が、パッと――まるで真夏日の炎天下に咲く向日葵のように。他に例えるなら夜空に開く虹色の打ち上げ花火のように――輝いた。



 華白は言ってしまったのだ。

 「奢る」というその一言を。



「いいんですね?」

「ほんっとうに、いいんですね?」



 後日、夜鑑華白はこのように語っている。


「あれは――わたしの人生史上最も言ってはいけない一言のひとつであったと。今ならそう判る」


 

 食欲旺盛な女子中学生と女子高生は止まらない。


「抹茶ラテもう一杯で」

「栗のまろやかモンブランひとつと、いちごミルフィーユも」

「バスク風チーズケーキもお願いします」

「え、パフェもあるの!? じゃあこの、チョコバナナパフェスペシャルで!」

「パスタも頼んでいいですか?」

「華白さん、ご馳走様ですっ!」

「ご馳走様です!」

「……」




 こうして、華白の財布の中身と共に楽しい時間は過ぎていく。県内会合女子会編――千葉県組や『祓』の過去が明かされ、そして後にはお腹をケーキやらパフェやらパスタやらでいっぱいにした暴食女子二名が残されることとなった。


 

「華白さん、ありがとうございました」

「またよろしくお願いします」



 眉をピクリと動かし、若干の怒りを含ませながら彼女は言った。


「もう二度とお前らには奢らないことを、わたしはここに誓うよ」





 これは――日常の“となり”の世界で繰り広げられている陰陽師奇譚。さて、次の物語の舞台は、近畿地方。幕開けは、天乃三笠の修学旅行。


 いや……違う。


 物語は、佐々木峻佑が教育実習の約束をすっぽかすところから始まるのである。



【半呪鬼の友人編】了

次章からは【近畿横断・白虎戦編】が始まります。

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