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【木曜17時更新】となりの晴明くん〜闇を祓いし者たちの陰陽奇譚〜  作者: 咲翔
【半呪鬼の友人編】

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083.旧千葉県組


「……そうだな、何から話そうか」


 華白は飲んでいたアイスコーヒーのカップをコトリと机に置いた。そして目を瞑り、今一番伝えるべき言葉を探そうと思考を巡らせる。

(三笠にも分かりやすく、かつ千葉で何があったのかを知らせるには――四年前の、話からかな)

 華白は一人心を決め、口を開く。


「四年前の話からしよう。2019年の千葉県所属陰陽師の人員構成は、実は今とだいぶ違ってな。名前だけ挙げると」


 彼女の脳裏に蘇る五人の姿。


「『流』が夏行さん、佐々木峻佑、花園結依、栗花落千里、桜咲舞桜。そしてわたしを加えた六人、それが四年前までの千葉県陰陽師」


 三笠の頭の中にも、何人かの顔が浮かぶ。まず――丸眼鏡の奥の目を細めて笑う、背の高い大学生。髪を高い位置でポニーテールに結んだ、気の強そうな埼玉県『流』。確か祓会で見かけたことがある。そして赤みがかった短髪の男子高生に、今目の前にいる黒衣の麗人。


(シュンさんに、舞桜くん、華白さんは知ってるけど……なんで花園さんが、そして他の二人って? あと、その前に)


「……舞花さんは?」


 三笠の質問に舞花は肩をすくめて答える。


「あたしは未だ陰陽師デビューしてなかったのよね。四年前っていったら十二歳だし? お兄ちゃんは両親が引退したあと桜咲家当主を継いだから、先に陰陽師になったの」

「そうだったんですね……。えっと、じゃあ、花園さんって言うのは……? 確か埼玉県の『流』じゃありませんでしたっけ」


 もっともな疑問をぶつける三笠。華白はそれもそうだというように頷いた。


「結依は元々千葉だったんだがな……四年前のある出来事をきっかけに陰陽師を一旦辞めたんだ。それで大学進学を機に埼玉へ移り住んで、そこで人員不足だと泣きつかれて渋々また陰陽師業をやっているらしい」


「ある出来事」


 三笠が思わず復唱すると、華白と舞花は重々しく頷いた。二人の手元の飲み物は、既に空になっている。華白は水滴の付いたガラスコップ越しに見えるテーブルの木目に視線を落としながら口を開いた。


「端的に言えば、四天王の襲来だよ」

 

 彼女の口が、そう動いた。


「東京と千葉の境界辺りに、呪厄年でもないのに突然『白虎』が現れたんだ。他の任務でたまたまそこに居合わせてしまった結依と峻佑と千里(ちさと)は戦闘に巻き込まれて……」

「それでね、」 


 舞花が声のトーンを落として呟いた。


「千里姉さんは直接白虎の呪いにかかっちゃって、死にかけたんだ。幸い、アキラさんが応援に来てくれて“命だけは”助かったんだけどね」


「命だけは……? それって」


「うん。今、千里姉さんはいわゆる寝たきり状態なんだ。『療』で特別に管理されている筈だよ」


 目を、見開く。

 驚きで声が震える。


「よ、四年間、ずっと……?」

「そう。あの日――確か、それこそ九月くらいの出来事だった気がするな。その時から千里姉さんは目を覚ましていない、もちろんあたしたちも面会なんて出来てなくってさ。それから……シュンさんと、結依姉さんは多分……この件をきっかけに仲悪くなっちゃったみたいで。今はもう決別状態」


「そ……ん、な」


 そんな大変なことが、四年前の千葉で起こった。そしてその出来事は、千葉県陰陽師の関係性も変えてしまった――佐々木峻佑の、あの穏やかな笑顔の向こうには、きっと今でも四年前の傷が残っているのだ。


 その事実に気づき、戦慄する。


「……その時って、『白虎』が現れたって話ですけど……滅せた訳ではないんですよね」

「ああ。陰陽師側の完敗だった」


 今度は華白が答えた。


「『白虎』は何人もの東京の陰陽師、それと埼玉の陰陽師を呪い殺した他……派遣された『巴』まで容赦なく叩きのめした。本当にあれは……『祓』側の作戦ミスというより『白虎』の用意周到さに敗けたという感じだった」


 三笠は首を傾げる。


「『巴』も叩きのめしたって……あの三人のうち、誰かが来てくれたってことですよね」

「いや」


 華白が三笠の言葉を遮った。


「今の『巴』じゃない。嵐尾(あらしお)という人だった」


 知らない名前――三笠と舞花は顔を見合わせる。どうやら舞花も知らない人らしい。


「……派遣された嵐尾は、四天王との戦いの中で戦闘不能状態になってな。今は引退している。その代わりに『巴』になったのが氷室雪吹――フブキさんだ」


 初めて聞く『巴』の変遷の話。

 初めて知る四年前の出来事の詳細。


 三笠は――正直、華白というよく知った人から語られる、全く知らない事実を聞くのが少し怖かった。千葉県にずっと居たわけではない自分が知り得ないことを、ハルやアキや華白や舞花や舞桜や峻佑は経験してきて――そして此処までやって来ているのだ。


 彼らの過去。

 彼らの消えない傷。


 それを知るのが、知ってしまうのが、怖い。


(――――だけど、私だって千葉県の陰陽師。

 そして今年は勝負の年・呪厄年でしょう。

 ここで怖気づいてどうするの)


 三笠は、話の続きを聞くという力強い意思をその瞳に浮かべて華白と舞花を見た。


「それで、千葉県の陰陽師たちは」

「結依と千里が抜けて、四人になってしまったからな。そこで桜咲家から舞花が入ってきた」


 華白の紫色の瞳が舞花へ向く。


「そ。それで、五人になった陰陽師だったんだけど。あたしなんて最初役立たずでさ、殆ど四人で任務回してくれてて」


 少女の赤い目が、少し笑った。


「まあ、そんなこんなで比較的平和な二年間が続いていたわけ。……でもね、」



 再び舞花は目を伏せた。



「2021年、今から二年前――あたしたちを、いや、全国の陰陽師を地の底に突き落とすような出来事が起こったの」




 

 




 三笠の瞳が揺らいだ。







 二年前――妙にこの数字に、聞き覚えがある。








 自分の記憶の中でなのか。

 或いは誰かの話の中に出てきたのか。






 もしくは、両方か――?








「それはね……、大呪四天王『玄武』『青龍』『朱雀』の同時発現。それに伴うように四天王眷属を始め全国の呪鬼の活動が活発になった――――そう、あの時も『呪厄年』だったの」

 

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