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【木曜17時更新】となりの晴明くん〜闇を祓いし者たちの陰陽奇譚〜  作者: 咲翔
【幕間・それぞれの日々で】

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075.夜鑑華白と賀茂明は真面目な話をしている様だが、おっと? 他の四人は病棟で騒ぎ始めたーー!


  

 誰かの話し声が聞こえて、目を覚ます。


「ここは病棟なんですね」 

「ええ。僕ら『療』の医師たちが働いている現場でもあります」

「ふぅん。呪鬼との戦闘後に残る残留呪詛を祓う治療……とかやってるんですよね。アキラさんたち、凄い」

「お褒めに預かり光栄です。それ程の事は成していませんが」


 この声は聞いたことがある。一人はアキラ=クレメンティ――『療』の医師長、もう一人は青森県『流』の竈猫柊月のようだ。彼ら二人の会話はドアの前を通り過ぎ、アキラの研究室がある方へと消えていった。


(柊月が『療』に来るって……イメージつかないな。あの“ある意味強いヤツ”が怪我をする筈無いから、おおかたリンゴでも届けに来たって感じか)


 そんな事を考えながらぼんやりと白い天井を見つめているのは、夜鑑華白。此処は『療』の中の病室。二日前の玄武戦の後、華白たち六人は半強制的にアキラに連行されたのだ。幸い六人とも致命傷は負っていなかったものの、呪鬼の結界の中で長い間戦っていたせいだろうか、身体の調子が何となく振るわなかった。そこで経過観察として、『療』に留め置かれていたのだった。


(正直、四天王を倒したという実感が湧かない。確かに強かったし、ハルやアキは療呪法で治したとはいえ大怪我をしていたけれど……)


 北羅銀――時を操る少年の姿の呪鬼。広島の厳島神社に巨大結界を築き、広島県陰陽師をほぼ全滅させた上に一般人にまで手を下した。


(まあでも、アイツのレベルがあと三体――哀楽は別格かもしれないが――居るとなると、一年で倒せるのかというのも怪しい……いや、琴白ならやりかねない)


 華白の脳内にこだまするのは、祓会での琴白星哉の力強い呼びかけ。



 ――強い呪鬼が、向こうから出てきてくれる。それはつまりチャンスだ。私たちの悲願である呪鬼の殲滅を行う、最大で絶好の機会――だから私たちは全力で戦う。眷属も、四天王も、その一角の哀楽も……この一年で、倒す!



(何故琴白は今回の呪厄年で“終わらせよう”としているのだろう。わたしの記憶が間違っていなければ“二年前も”呪厄年だった――のに、何故今になって)


 頭の中を廻る疑問。


(わたしの予想が外れていなければ、その理由はおそらく“あの人”が――)


 華白がそっと目を伏せた時だった。


「華白さん、入ります」


 コンコンと扉がたたかれ、少し低い少年の声がした。冷静で穏やかなこの声は。


「明か、どうした」


 スッと扉が開き、眼鏡をかけた双子の兄・賀茂明が華白の病室に入ってきた。


「話を少ししたくて。具合はどうですか」

「元気だ。身体ももとに戻ってきた……明の方は」

「僕も見ての通り、普通に歩けるし心も平調です」


 ふっと優しい笑みを零すアキに、華白は微笑み返す。


「それは良かった。……で、話っていうのは」

「聞いてよいのか分からないので、ハルは置いて僕だけで来たんですが」


 アキの目に、鋭い光が浮かぶ。


「単刀直入に聞いてしまいますね――華白さん、北羅の言っていた『(みそぎ)』とは何ですか?」


 思わぬ質問に、華白の紫色の瞳が揺らぐ。


「……それ、は」 

「北羅の言葉――華白さんのその特徴的な白い髪を見て彼が放った台詞ですよ。『禊の一族出身か?』とのね。それに対して華白さんが返したのは『わたしの過去に踏み込むな』でした」

「……そうだったな」


 動揺を隠しながら、華白は頷く。そんな彼女を更に追い詰めるように、アキは問うた。


「そして貴女の過去には、父――賀茂夏行(かも なつゆき)が絡んでいる。違いますか?」

「……」

「お願いです、聞かせてください夜鑑華白さん――『禊』と僕らの父について」 


 アキの真っ直ぐで凛とした眼差しが、華白を貫いた。その瞬間、彼女は理解する――この少年がどんな思いで、彼らの父が消息を経ってからの年月を過ごしてきたのかを。そして、アキが本気で“あの人”を探しているということを。

 

「……わかった、話す。……だが今は聞いたことを、アキの胸に留めておいてほしい。時期が来れば、わたしからいずれ千葉の皆には話そうと思うから」


 華白の返事に、アキはコクリと頷く。彼女はその様子を見て、小さく息を吐き出した。

 目を瞑る。あの人と出会った、遠い日のことを鮮明に思い出せるように――言葉を紡いでいく。 


「確かあれは、十三年前のこと――」 






 *



 一方その頃、天乃三笠の病室では――いわゆる修羅場が発生していた。


「あのさぁ」

 形の良い目を歪ませ、思い切り睨み顔を見せるのは、新潟県『流』の夜条蒼空。

「なんで天乃さんの部屋にお前が居るわけ? 何、襲おうとしてたの?」


「そんなわけあるか、夜条!」

 そんな彼に立ち向かうように腕を組み、仁王立ちをするのは賀茂双子の片割れ――賀茂晴。

「お前こそ何でミカサと二人きりで喋ってやがるんだよ。下心丸出しにしやがってよぉ」


 へっ、と不敵に笑うハルに対して、夜条はおちょくるように問い返す。


「下心? 心外だね。俺は天乃さんと積もる話をしに、此処へ来たんだけど?」

「積もる話。なにそれ、俺たち仲いいんですアピやめてくんね?」

「仲いいのは事実ですが何か? 賀茂晴くん」

「いやお前所詮先輩だろ」

「同学年だからって有利なわけじゃない」

「有利? へーぇ、何においてかな?」

「好きな人の隣に立つことにおいて、だよ。君は確かに今天乃さんと同じクラスで同じ千葉所属だが、まだ出会って三ヶ月ってとこだろ?」

「自分のほうが長いと、そう言いたいのか?」

「そうですけど」


 当の本人――天乃三笠の目の前で、醜いやり取りを繰り返す夜条とハル。そんな二人を見て、三笠は目を白黒させる。


(なんなの……この二人! 夜条先輩とお話してたのに、ハルがなんか入ってきて……その途端これよ! 三人で仲良く話せればいいんだけど) 


 ちらっと、二人の様子を伺う三笠。しかし諦めて首を横に振る。


(これじゃあ、ダメそうね)



 まだ少年陰陽師二人の応酬は続いている。

「だったら勝負するか? 夜条先輩?」

「ほう、望むところだ。賀茂後輩」

 見下すような夜条の台詞――しかしハルはめげない。

「内容は……そうだな、陰陽師らしく呪法でいこうか」

「いいのか? 俺は『流』でお前はヒラだろ?」

「は、だからなんだよ。バカにしてんのか?」

「うん、してる」


 ピキッ。


 ハルの額に青筋が立つ。


(あちゃー、こりゃダメだ)


 三笠は頭を抱える。しかし彼らを止める気力は、彼女には無かった。夜条が御札を取り出し、ハルもそれに続く――一触即発の空気。その瞬間。


「あのなぁ、五月蝿いんだよ。茶髪と新潟のやつ!」


 三笠の病室のドアがバンッと開かれ、眉間にシワを寄せた『巴』が顔を出した。いつもは高い位置でサイドテールにしている髪を、今日は下の方で緩く括っている女性――そう、氷室雪吹である。


「お前らはごちゃごちゃうっせーの! まじで隣の部屋にまで聞こえてるからな。まったく……そんなんだと“嫌われるぞ”」


「「え゛っ」」


 同時に変な声を出すハルと夜条。そんな彼らを見てフブキはため息をつく。


「あのなぁ、本人の前でそーゆー醜い争いをするバカが何処にいるんだ。まさに漁夫の利の典型的シチュエーションじゃないか。お前ら二人が争っている間に、第三者が取ってっちゃう的な」

「それは……」

「困りますね……」


 阿吽の呼吸のように反応する二人。それを見ながら三笠は微妙な表情を浮かべる。


(息ぴったりなんだけどなぁ……)


 それにしても。


(フブキさんの声、やっぱり何処かで聞いたことが……) 


 本当は出会った瞬間から思っていたのだ。氷室雪吹の綺麗な声を、どこかで……どこかで聞いたことがあると。それがいつだったのか、どういうときだったのか……。


「あ」


 三笠が声を上げた。それに驚いて、夜条とハルとフブキが一斉にそちらを向く。


「なんだ」

「何かあったのか?」

「どーしたミカサ」


 三笠の目は、ただ一点……フブキの青い目だけを見つめている。


「アタシかい?」


 首をひねるフブキ。そんな彼女に向けて、三笠は言い放った。


「あなたの声、ずっと聴いたことがあるなぁって思ってたんですけど」

「はぁ」

「あの、フブキさん……あなた、『ユキガクレ』ですよね?」


 それは突然の爆弾発言――。ユキガクレとは、今流行りのシンガーソングライターである。作詞の言葉のセンスもさながら、美しい歌声でスピード感あふれるアニソンも趣深いバラードもハイクオリティに歌い上げる才能の持ち主。しかし彼女について分かっていることは、二十代の女性であるということだけ。実は音楽業は副業で、兼業しているらしい――との噂も流れている。桜咲舞桜や舞花、そして三笠もハマっている顔出ししていないアーティストであるのだが。


「フブキさんが、ユキガクレ?」

「まさか、ナイナイ」


 ハルと夜条が揃って手をひらひらと振ったその時だった。


「――っ!」


 フブキが突然逃走した。彼女の姿はあっという間に消え、すぐにバタンと隣の病室の扉が閉まる音。


「えっ?」


 中学生三人組は慌ててフブキの病室の前に走り出る。


「フブキさん! ちょっ、逃げ出すってことはマジなんですか!?」

「じゃあユキガクレの本業は陰陽師ってこと?」

「え、ちょっと『忘却アローン』歌ってくれません? あ、最新の『メザスモノ』でも」



「うっせぇ、黙れ! 帰れ!」


 ドアの内側で暴言を吐きまくる最強陰陽師。


「あ、これは確定演出だな」

「慌てる氷室さんかわいい」

「あとでサインください!」


 そのあと直ぐに聞こえるフブキの声。


「誰だ可愛いと言ったやつは!」 


「夜条蒼空ってやつでーす」

「おいっ、賀茂晴! 告げ口すんな」

「わかった、夜条だな……覚えてろよ」

「氷室さんが言うとまじで怖いんですけど」

「ドンマイです、夜条先輩」

「天乃さんまで!?」


 病棟の廊下で騒ぎまくる陰陽師たち――彼らに、アキラ=クレメンティによる自称正義の制裁がくだされるまで、あと五分といったところだろうか。



 「人は、誰にも見せない一面を持っている」とはよく言ったものだ。普通の中学生である三笠やハルや夜条たちが裏で陰陽師として暗躍しているように――峻佑や一条たち大学生、舞桜や北山音羽といった高校生も然り。だから社会人の年齢であるはずの氷室雪吹が「シンガーソングライター」という「誰にも知られないようにしていた一面」を持っているのも、当然なのかもしれない。


「いや……まじか、謎のユキガクレさんの正体は氷室さんだったのか」

「フブキさん、安心してください。誰かに広めたりはしませんから」

「しませんから」


「当たり前だ! お前ら以外の第三者に広まっていたら即お前ら三人呼び出すからな!」


「「「はぁい」」」



 怪しい返事を返す天乃三笠、夜条蒼空、賀茂晴の三人組。――これは、玄武戦から二日後の出来事。


 この後、一条柚琉がユニバで迷子になったり、琴白星哉が埼玉に飛んだり、古闇真白と退院した夜条蒼空が糸魚川でばったり出会ったり、そして千葉県組で夏休み課題合宿をしたりしながら……陰陽師たちの夏休みは過ぎてゆくのである。


 これは、「幕間」。


 和歌の力で闇を祓う陰陽師たちの、ささやか……でもない日常を切り取ったもの。


 呪鬼と相対する彼らでさえ、何かを一人で抱え込んだり、過去に嘆いたり、負の感情を抑えられなくなったりすることもある。それでも、仲間と笑い合うこと、新たな出会いを起こすことによって、陰陽師たちはいくつもの危機を乗り越えて、より強くなってきた。


 そしてその輪廻は今も繰り返されている。















 物語は、次のステージへ――――。



【幕間・それぞれの日々で】 了

次章からは【半呪鬼の友人編】が始まります。

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