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【木曜17時更新】となりの晴明くん〜闇を祓いし者たちの陰陽奇譚〜  作者: 咲翔
【厳島・玄武戦編】

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069.快挙



 六人の陰陽師による例の文言の詠唱。呪鬼を祓うために発せられた涼やかな声音は――その中でも特に、『除の声主』である天乃三笠の声は――大呪四天王にも、有効だった。


 六人が全員、シュタッと床に降り立った瞬間。


〈ギェア゛ァァァィヤァァァギャィァァァァ――!〉



 耳をつんざく断末魔が、鼓膜を揺らす。耳をふさぎたくなるほど不快な叫びが、陰陽師たちの背後の空気を呑み込む。


〈ギャァァァ 死に゛だぐな゛い゛ァァァァァ゛〉


 北羅銀は醜い叫びをあげ続ける……だがしかし、華白によって六分割された体の部分部分に別々の攻撃を受けた北羅は、再生もままならず――ただ溶けるように消えていく。


〈 嫌だっ、ボクが何をしたって言うんだ! 〉


 もう既に人型も、龍の形も成していない闇が叫ぶ。


〈 ボクは千年も生きてるんだ、お前らなんかよりずっと長く生きていて、そのぶん価値がある! 道端に生えてる雑草みたいな弱者じゃなくて! 四天王にまでなった強者であるボクが! 生きていたほうが此の世にとって良 〉


「五月蠅い!」


 フブキが新しい御札を取り出し、地べたにへばりついている闇を斬り祓った。北羅の言葉は途中で途切れ、短い断末魔の叫びが上がる。


 フブキの銀色の眼が、もともと北羅だった闇の塊に侮蔑の色を向けた。


「アンタが生きていたほうが良い? 冗談も程々にしな。アンタは死ぬべき存在。生きていることさえ許されない、死んで然るべきことをしてきた重罪人だ!」


 片目を歪ませ、吐き捨てるように続けるフブキ。


「強者だから、生きるべき? 間違いだ。戦闘において強いか弱いかが生き死にの話に関係してくる事自体がおかしい。


 この世で生きていて良い人間基準なんてのは、考えることが難しい。だがこれだけは、分かる。北羅――アンタは生きていてはいけない。そしてもう二度と、生まれてくるな」


 

 フブキが、片足を思い切り振り上げて、ダンっという音と共に踵を落とした。霧散する闇、消え行く北羅。


 そして、

「永遠に、“さよなら”」


 フブキの言葉とともに、大呪四天王『玄武』は、塵一つ残すこと無く――此の世から、消え去った。


 今までに数多くの呪鬼を生み出し、数多くの人を殺めてきて、今年の『祓会』の隙に厳島神社を占拠し、駆けつけた広島県陰陽師を全滅させ、一般人すらも殺して傀儡に仕立て上げ――おまけに性格が最悪だった最凶の呪鬼。名を北羅銀という彼は、六人の陰陽師によって滅せられた。


 『巴』氷室雪吹

 千葉県『流』夜鑑華白

 新潟県『流』夜条蒼空

 天乃三笠

 賀茂明

 賀茂晴


 彼らが繋いだ絆が、起こした奇跡。大呪四天王を、“六人のうち誰も死なずに”滅せたこと――これは快挙である。『呪厄年』であることを最大限利用して、ピンチをチャンスに転換する琴白の発想。そこから始まった新体制『祓』の最初の緊急任務。


 それを、遂行できたこと。

 六人で『玄武』に勝てたこと。

 これは誇るべき出来事だ。




「終わっ……た……」


 三笠がか細い声で呟いた。


「終わったな」

「……やっと、か」


 アキとハルも同時に言う。次の瞬間、三人は急に足の力が抜けて、立っていられなくなった。


「フラフラ、する……」


 地面に膝をつく三人組。そしてそのまま、疲労に任せて床に倒れ伏した。


「天乃さん!? 賀茂兄弟!?」


 夜条が心配そうにしゃがみ込むが、しかし『流』とはいえど彼もまだ中学三年生――同じようにフラッと倒れ込んだ。


「足がもうだめ……」

「疲れた、ね……」


 少年少女は静かな舞台の床で、そっと目を瞑る。


 華白とフブキもまた、戦いを終えたことに対する達成感と、夢の中に居るような浮遊感――そして体を蝕む疲労感を感じていた。


「フブキさん、終わりましたね」


 華白がそっと呟く。


「ああ、終わった――」


 思えば、長い戦いだった。物理的にだけではなく、とある過去を見せつけられたり、心理的にも大変だったりとピンチに陥ってばかりだったが――どんなときも、仲間が側に居て、となりで一緒に戦ってくれた。


(これは、他の皆に感謝するべき、だが……)


 その前に、フブキと華白を猛烈な睡魔が襲った。


(礼を言うのは、目が覚めてから……)


 青髪サイドテールの美しき女性と、白髪黒衣の麗人は背中合わせに座り、目を閉じる。


 六人が深い眠りにつく頃――術式の主を失くした呪詛結界が、ほろりほろりと剥がれ落ちるように消え始めた。重い暗闇が去り、涼しい夜風が厳島神社を吹き抜ける。夜の帳が下りた広島、その空には満ちた月が浮かんでいて。


 ただ、平舞台で眠る六人を、静かに見ていた。




 *





 こうして、大呪四天王『玄武』との激闘は幕を閉じた。この知らせは、駆けつけた一人の『祓』陰陽師によって全国へと伝わる。




「『玄武』を倒した!」


 夜の闇に包まれた『もう一つの出雲大社』では、琴白星哉が知らせを受けて素っ頓狂な声を上げた。


「それは本当に?」

「はい」


 電話の向こうの陰陽師が、返事をする。


「フブキちゃんや、皆は無事!?」

「はい。『療』の方々と共に戦いの後片付けや救護にあたっておりますが、六人全員無事です。傷が無いわけではないですが、致命傷はなく。今は皆、気を失っています」


「よかっ……た……」


 琴白の“本音”が出た。


「賀茂……ハルとアキ、声主、華白ちゃん、蒼空くんも無事なんだね」

「はい」

「本当に、よかった」



 琴白の脳裏に蘇る、数時間前の記憶。


「『玄武』って言ったら、四天王の中でも古株じゃないか。そしてその性格は、ひん曲がってるって噂だ――そんなやつには、アタシみたいなのがお似合いだろ」


 

 そんな台詞を残して、此処――出雲大社を旅立っていったフブキ。あの時はなんと返して良いのか分からず、そのまま送り出してしまったが。


 今度会った時は、必ずフブキに伝えよう。


 よくやってくれた、そして、ありがとう。同じ『巴』として誇りに思う。だけど、一つ訂正させて欲しいと。


 フブキちゃんは、呪鬼なんかにお似合いなひとじゃない。「アタシみたいなやつ」だなんて、自分を卑下するような言葉は使わないで欲しい。


 間違いなく君は、立派で凄い陰陽師だと。


 そう、伝えたい。



「じゃ、報告ありがとね」


 琴白星哉は、電話の向こうに礼を言う。


「『療』の皆さんにも宜しくお伝え願うよ。それじゃね」


 通話停止ボタンを押し、しばしその画面を見つめる。『玄武』滅殺により、事態が大きく動き出した。そう、この一年が勝負――。


「フブキちゃんたちが頑張ったんだから、私も……頑張らなきゃ、ね」


 琴白星哉は短くそう呟き、携帯電話の電源を切った。


 


【厳島・玄武戦編】 了

次章からは【幕間・それぞれの日々で】が始まります。

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