044.出雲大社に
陰陽師たちを乗せた新幹線のぞみは、西へ西へと走っていく。
『次はー、新大阪―、新大阪―』
あっという間に、天下の台所・大阪に着いた。ここでもまた、新たな仲間が乗り込んできたようだ。
「あー、華白見っけたーっ!」
朗らかな、明るい声が車内に響く。夜鑑華白は聞き飽きたその声にため息をつきつつ、振り向いた。
「なんだ、蜜葉。うるさいな」
声の正体は、毛先を桃色に染めた明るい髪の女性だった。髪を編み上げ、後頭部でぐるっとおだんごヘアを作っている。そして上半身は、蛍光色のタンクトップ……いかにも「陽キャ」な感じの若い女性。
三笠は思った。
(この人も『流』なの……?)
そしてその予想は正しかった。
タンクトップおだんごヘアの彼女は、スススと三笠たちの座席の方へ移動してくる。
「か・は・くー!元気そうやん、大好きやよ」
そして急に、我らが『流』に愛の告白をする。
ますます怪訝そうにする三笠たちに気づき、彼女はこちらに笑顔を向けた。
「あー、自己紹介してへんかった。好きなことは喋ること、得意なことは喋ること、嫌いなことは喋らへんこと、の大阪生まれ大阪育ち! うちは龍宮蜜葉やで。千葉県の方々やろ? よろしゅうたのむわ」
「あ、あ、よろしくお願いします……」
蜜葉の剣幕に圧されて、ようやくアキが挨拶を返した。とにかく喋り倒すという、大阪人のイメージにぴったりな人だなと三笠は思いながら、改めて蜜葉を見る。すごくかわいい顔立ちの人だけど……蛍光黄色のタンクトップがどうしても目を引いてしまう。
「蜜葉。相変わらず趣味の悪いタンクトップ着てるんだな」
「趣味が悪いなんて! 華白こそ、一年中そのマント羽織ってるんやろ」
「一年中タンクトップよりはマシだ」
(あー……どうしてこんなに、陰陽師……特に『流』の人たちって癖が強いんだろう)
心の中で、何度目かわからない疑問に首をかしげるしかない三笠であった。
*
東京駅を出てから三時間ほど経ったころ。新幹線は、岡山駅のホームに滑り込んだ。三笠たち千葉県一行に、大阪府と京都府の陰陽師たちを加えた二十人ほどの集団は、ぞろぞろと乗換をすべく歩き出す。
「次は、何に乗るんですか?」
舞花の質問に、峻祐が素早く答える。
「二番線発のJR特急やくも23号・出雲市行に乗って、終点出雲市で降りるよ」
「すげー、さすが鉄オタ」
「でしょ」
舞桜のからかいも誉め言葉だととらえた峻祐は、ある意味強い。
峻祐の言う二番ホームに着いた。すぐに、有料特急が到着し、ホームドアが開く。
「じゃあ、これに乗ろう」
座席に座ると、峻祐がこれからの予定を教えてくれた。
「出雲市駅に着いたら次は歩いて、『電鉄出雲市駅』に行く。そこから一畑電車北松江線の松江しんじ湖温泉行に乗って、さらに『川跡駅』で乗り換えて今度は一畑電車大社線・出雲大社前行に乗る。何駅かしたら……確か四駅だったかな……『出雲大社前駅』に着くから。そこでようやく到着だよ」
「遠いね」
ハルが呟いた。
「でもあともう少しじゃん」
三笠はポジティブに言うが、
「飛行機乗ってたら、もっと時短できたかもなー」
舞桜が一言。それに対して華白は……
「わたしを無理やり飛行機に乗せて七味まみれになるか、電車でゆっくりかけていくかのどちらかしかないんだよ」
(華白さんを飛行機に乗せると、七味まみれになるのか……)
そんな彼らのやり取りをほほえましく見つめる一条柚琉。
「変な会話してて面白いね」
「あなたが言えることじゃないですけどね」
北山音羽は、淡々と切り返す。
*
結局、三笠たちが出雲大社に着いたのは午後の二時を過ぎた頃だった。朝五時に柏駅を出発し、ここまで九時間……長かった!
夏の昼下がりの日差しが、長旅を終えた二十人に降り注ぐ。夏の暑さは、当たり前だが、千葉と島根でそう変わらないようだ。
「あちい……」
「日傘持ってくるの忘れちゃったよ」
「あー、日陰……」
へばっている陰陽師が多い中でひとり……。
「おおー! これが有名な、巨大しめ縄ね!」
テンション爆上げの女子中学生が、境内を走り回っている。
「何この建物! やばいんですけど!」
「おおお! でっかい石碑!」
「そうだった、出雲と言えば因幡の白兎じゃん!」
そう、ひそかな日本神話オタク……我らが主人公・天乃三笠である。
「ねー、ハル! この社殿をバックに写真撮ってくんない?」
「……暑い」
「聞いてる? ね、お願い!」
「……わーったよ」
三笠の上目遣いに耐えられず、ハルは仕方なくスマホを起動させた。
「はい、チーズ!」
軽快なシャッター音が鳴り、青空と社殿と三笠の姿が鮮明に切り取られた。
「わー、ハルありがと!」
「いや、まあ、どーいたしまして」
「大丈夫? 顔赤いけど」
「なんでもねーよ。それより写真、確認する?」
ハルが端末を操作して、アルバムを開いたその瞬間……。
「キャーーー!」
「誰だよこいつ!」
ハルと三笠の悲鳴が重なった。
「なんだよ、二人ともうるさいな」
近づいてきたアキも、
「うわっ、心霊写真かよ!?」
思わず声を上げる。
なんとその写真の三笠の背後には、心霊……ではなく、ある男が写っていたのである。和服に丸眼鏡、三笠に負けないくらい自己主張の強いピースをしている「あいつ」が。
「千葉県と、大阪府と、京都府のみんなだね。暑い中来てくれて感謝するよ」
声が、ふわりと響いた。
三笠たちは驚いて声の主を見る。その目に映ったのは……。
『巴呪法・幻の大社』
術式印を手で結びながら、やわらかな笑みを浮かべる『巴』の姿。
「ようこそ、『もう一つの出雲大社』へ」
白い光に、包まれる。




