042.東京〜京都
千葉県陰陽師七人を乗せた「新幹線のぞみ41号博多行き」は軽やかに線路を滑り出した。移りゆく窓の景色に、三笠とハルは釘付けになっている。
「何あの建物ー!」
「すんげーな、めっちゃ高いとこ走ってる!」
窓に頬をくっつけそうな勢いの二人を、舞桜が笑いながら注意する。
「二人ともガキっぽいことすんな」
「俺まだ十四だもんねー」
すかさずハルが反論する。舞桜はため息をついてみせた。
「そーゆー問題じゃなくて、こっちが恥ずかしいから。まったく中学生は……」
「舞桜」
華白の冷たい声が響く。
「まさか昨日の事を忘れたわけじゃないよな……。誰だ? 術式で刀を作って台所をはちゃめちゃにした原因を作ったのは」
「はぃ、俺です。すみません」
さすがの舞桜も、華白には逆らえない。
「ところでミカサちゃん」
峻佑が三笠に声をかける。
「新幹線、乗ったことあるんだ。ほら、僕らは去年も祓会に参加してるから乗ったことあるんだけど」
「ああ、ありますよ」
コクリと頷く。
「引っ越してくるときに、一度」
そう、新潟から千葉へ引っ越してくるとき――荷物は引っ越し業者のトラックに乗せ、自家用車を持っていなかった天乃一家は、電車を乗り継いで千葉へと向かったのだ。その間に乗った記憶がある。
「そーなんだ。やっぱさ、新幹線ってさ……っていうか電車に乗るとさ、気分が上がらない?」
峻佑の目が、輝きを増す。三笠は首を傾げる。
「そうですか? そんなでもないですけど」
「えー、電車好きじゃないのか……。この前鉄道博物館行ってたじゃん」
「あれは別に電車が好きだから行ったわけじゃないですよ」
「そうか……」
心底残念そうにする大学生。三笠はそんな彼を見てフフッと笑う。するとそのとき、彼女の脳裏に一人の男子の顔が浮かんだ。
「そういえばクラスに、電車めっちゃ好きな子いるんです。シュンさんと話し合うんじゃないかなって思いますけどね」
「え!? そ、その子の名前は……?」
ハルが三笠の方を向いて言った。
「それって、坂井のこと?」
「あ、そうそう。坂井歩人くんって言うんです。学校に鉄道研究部を作ろうと頑張っているんですけど、なかなかうまく通らなくて、今は剣道部に入ってるっていう子です」
「へー!鉄道研究部ね。僕も大学でそんなサークル入ってるよ。その坂井くん、だっけ。会ってみたいな」
「まあ、シュンさんが俺らの町に来れば会えるよ」
ハルの言葉に、峻佑は微妙な顔をした。
「うーん、ちょっと遠いんだよな……」
そう、峻佑の家と三笠たちの町は、同じ県内でも少し行きにくいところにあるのだ。
「機会があればね」
峻佑がそう笑ったとき、すかさず舞桜が口を挟んだ。
「ねえ、ミカサちゃん」
「なんですか?」
「あのさ、引っ越してきたって初耳だったんだけど」
「あっ」
そう、三笠が転入生だったということは、ハルとアキ以外知らないのである。
「そ、そうなんです。新潟から引っ越してきて」
「新潟か……米が美味しそうだな」
どこか遠いところを見つめる華白は置いといて、舞桜は更に聞いた。
「どこの市から来たの?」
「あ、えっと……糸魚川市、です」
「なんでこっちに引っ越してきたの? 親の転勤とか?」
「あ、別にそういうわけじゃないんだけど」
「じゃないんだ。じゃあ、何?」
「ミカサちゃんのお家、カフェやってるんだもんね! 転勤じゃないかも」
舞花が嬉しそうに言う。
「そうか。自営業だったら転勤とか無いもんな」
アキが腕を組みながら三笠の方を見た。
「ま、まあね。えっと、引っ越してきた理由か……」
「うん、それを聞きたいなって」
舞桜の視線が三笠に突き刺さる。するとハルが立ち上がって言った。
「特に無いんじゃねーの? もしかしてあれ? カフェを移転したかったとか」
「……かもしれない」
三笠はやっとのことでそう言った。舞桜が「ふぅん」と目をそらす。なんとなく、気まずい雰囲気が漂う。それに気づいたアキが、ハルと目配せをして立ち上がった。
さりげなくトイレへ向かうふりをし、舞桜の腕を取る。アキに腕を掴まれた舞桜は少し驚きながらも、素直に彼に着いていった。
陰陽師たちの座席から離れた、新幹線のトイレのドアの前で、アキは立ち止まった。彼のあとについていた舞桜も足を止める。
「なんだよ、アキ。俺の腕をとって連れてきて」
「桜咲舞桜……お前さっき、しつこすぎたぞ」
「しつこい?何が?」
「天乃三笠への質問だよ」
アキが眼鏡の位置を直しながら言った。
「引っ越してきた理由聞いてただろ。めちゃくちゃ鋭い目線で天乃三笠のことを見てるし、何回も聞くしで、なんか逆に怖かった。……そんなに、天乃三笠が引っ越してきた理由を知りたいのか?」
「お前知ってんの?」
「いや知らない」
舞桜はアキの返答を聞いて、しばし口を閉じる。が、そのあと小さな声でアキに囁いた。
「だって不思議に思わないか? ミカサちゃんの声は陰陽師なら分かるほど清らかな『除の声主』の声だ。それに新潟県の陰陽師たちは気づかなかったのかなって」
「周りに陰陽師がいなかったってだけの話だと思うが」
「……そうか」
「なんだよ、まだ何か思うところがあるのか?」
アキが舞桜を冷たい目線で貫いた。舞桜もそれに対抗して視線を合わせながら尋ねる。
「ミカサちゃんが越してきたのって、いつ?」
「五月初旬だ」
「そうか……時期的にもピッタリ合うんだよね」
「何とだ?」
舞桜の口がゆっくりと動いたように見えた。
「新潟県糸魚川市に、『哀楽』が現れた時期と」
「なんだと?」
「新潟県に呪鬼の祖である哀楽が一瞬現れたんだよ。本人自らね。それを察知した新潟県陰陽師たちは祓に連絡し応援を要請したが、間に合わなかった。哀楽が何をしたのかはわからないが、民間人十数人が犠牲になる事件が起きてるんだ。今年の五月の初めに」
「つまり天乃三笠の引っ越しの理由には、それがあると」
「確定してないけどね。でも何となくそう思っちゃって」
「そう、か……」
会話が途切れたところで、車内アナウンスが響いた。
『次は、京都ー。本列車は、まもなく京都駅に到着します』
「お、京都だ。修学旅行で来たのが最後だなー」
舞桜が、アキとの話を切り上げた。
「アキは来たことある?」
「いや、まだだ。修学旅行で行く予定」
「へぇ。関東の学校の修学旅行って、やっぱり京都奈良だよねー」
舞桜が踵を返し、座席へと戻っていく。アキは、ひと呼吸おいてから彼のあとについて歩き出した。




