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【木曜17時更新】となりの晴明くん〜闇を祓いし者たちの陰陽奇譚〜  作者: 咲翔
【県内会合編】

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037.仲直り


 華白の一声で、突如千葉県陰陽師たちに訪れた災い――闇鍋パーティー。“個性豊かな”材料を入れるためには、まず、普通の鍋を作らなければならない。


「おーい、舞桜、明」


 華白が二人の名を呼ぶ。桜咲舞桜と賀茂明は、げっそりとした顔で振り返った。 


「な、なんですか……?」


「お前ら料理得意だろ?」

「はあ」

「まあ」

「よしじゃあ、まずは鍋を作れ。台所は好きに使って良いぞ」

「好きに使っていいって……あたしたちの家なんですけどね」


 舞花のつぶやきは、悲しいかな、暴走モードの華白には届かない。


「それじゃ、スタートだ。晴、三笠、舞花も手伝ってやれ。もちろんわたしも手伝」


「あなたは結構です、華白さん」

 

 アキがメガネの位置を直しながら言った。


「普通の鍋の段階で、七味まみれにされては、困りますから」


 その正論に、ほか五名は首が千切れそうなほど頷く。


「そうか…………チッ」


 最後に小さな舌打ちが聞こえた気がしたが、誰も取り合わないことに決めた。



 ◇◆◇


 

 かくして、鍋作りが始まった。台所にアキと舞桜の二人が立ち、三笠とハルと舞花もエプロンをつける。


「じゃ、やっていくか」


 舞桜の合図で、陰陽師六人による料理が始まった。


「はい、ミカサ、これ切ってだって」

「了解、ハルも手伝ってくれると嬉しい」

「舞花ー! 冷蔵庫の中にアレがあるから、ソレをコレして」

「はーい、お兄ちゃん!」

「アレソレコレで伝わるのすごすぎだろ……」

「はいはい、アキくん、手を止めないでー」


 台所は、ガヤガヤと騒がしい。三笠は、ハルとともに野菜を切る係に徹していた。


「あ、ハル。包丁、そこに置いたから気をつけてね」

「わかってるって」

「てか、めっちゃ話し変わるけどさ」

 三笠は尋ねる。

「桜咲家には『ある工夫』があるから集まりやすいって言ってたけど、その工夫って何……?見た感じ、和室があって、台所があって、普通のお家に見えるんだけど」


「え、ミカサ、気づかないの?」


 ハルが首を傾げる。三笠も揃って首を傾げた。


「え……?そんなに分かりやすいものなの?」

「うん、初めて入ったとき俺とアキは一発で気づいたけど」


 すると、ハルの言葉に続けて違う声がした。


「馬鹿だな、そんなんだから鈍感だって言われるんだ」

「なんですって?」


 三笠が振り返ると、案の定そこには冷たい目をした賀茂明がいた。エプロンに三角巾姿。手にはザルを持っている。


「お前は、この家の広さを見てなんとも思わないのか?」


「……? そりゃ広いなぁとは思ってるけど」


 そこまで言って、三笠は気がついた。そう、この家は広い……“広すぎる”のだ。


「あっ、広い……広すぎる!?」

「そうだ」 


 アキが頷いた。ハルが言う。


「外観は、家が所狭しと建っている住宅街の中の普通の一軒家。でも見てよ、この広さ。さっき七人で集まった和室でさえ何畳あるのかってほどの大きさだったろ?」

「うん。そういえば縁側が見えたんだけど、その向こうには小さな庭園もあった気がする……」


「そ。この家には専用の結界が張ってあってね、玄関から奥は結界の空間内なんだ。だからどこまでも広いスペースが取れる、つまり大人数で集まりやすい」

 そう説明するアキの背中側から、舞桜がピョコンと顔を出した。


「そそっ! しかも県内会合中には華白さんも結界を張ってくれるから、今は家の結界プラス華白さんの結界の、二重結界の状態なんだ。安全でしょ?」


三笠は目を丸くする。


「へぇー!すごいですね」

「まあ、由緒ある桜咲家ですからね」

 舞桜が胸を張ると、隣に立っていたアキがポカリとその頭を叩いた。

「自分で言うな、桜咲家当主の二歳児」

「何をぉ!? お前だって二歳児だからな。賀茂家当主くん」

「でも僕は十四歳、桜咲舞桜は(認めたくないが)十六歳。実際年齢との差は、あなたのほうが大きいですよ」

「たかが少しの差だろーが!てか、認めたくないがって、心の声ダダ漏れなんだよ!カモ鍋め!」

「誰がカモ鍋だ?」

「お前だよ!」


 ぎゃいぎゃい騒ぐ二つの陰陽師の名家の当主たち。そんな二人を見て、華白命名のバカ三人組のうちの一人――ハルは、ため息をついた。


「俺さっき、こんな奴らと言い合いしてたのかよ……」

「いやさっきのは、ハルも馬鹿だったと思うよ」

「うっ、言葉のナイフがっ」

「毒舌ですみませんね」


「はいはーい、口より手を動かすよー」


 台所にいるメンバーのうち唯一の大人である峻佑が声をかけた。


「はーい」

 舞桜がサッと持ち場に戻る。言い争っていたアキも、くるりと踵を返そうとした……が、その前に。


 彼はススッと三笠に近づき、顔を寄せた。


「……天乃三笠」


 耳元で名前を呼ばれ、三笠はヒッと肩をすくめる。

 振り向くと、ぶつかりそうなほど近い位置にアキの眼鏡があった。


「さっきは……済まなかった。僕としたことが、言いすぎてしまった。ごめん」


 あまりにもストレートすぎる謝罪に、三笠は焦る。


「いやっ、あのっ、こちらこそ人殺しとか言っちゃってごめんなさい。私も、言い過ぎだったと、思う」


 すると三笠の言葉を聞いたアキは、フッと笑った。 


「なんだ、お互い様だな」


 そう言って、三笠から離れるメガネ男子。彼はその笑顔のまま、舞桜のもとへと戻っていった。


(仲直り、できたのかな……)


 三笠がボーッとアキの方を見ているとハルが「どうしたの」と聞いた。


「なんか顔赤いけど」

「えっ、そう?」

「アキ、なんて?」


 どうやらアキに耳打ちされたところを見ていたらしかった。


「ああ、あの、ごめんって」

「なーんだ」


 ハルはホッとしたような顔で言った。


「仲直りできたんだ。良かったじゃん」

「うん……よかった」

「アイツも素直じゃないよな、パッと謝っちまえばいいのに、わざわざ三笠に近づくために俺たちの会話に入ってきてさ」


 ちょうどその時、舞花が二人に声をかけた。


「ハルとミカサちゃーん、野菜切れたら、さっきアキが置いてったザルに入れて持ってきてー」


「はーい」


 三笠は振り返って返事をする。


 鍋作りは順調だと、そう思われたが……。








 結論から言うと、千葉県陰陽師による闇鍋パーティーは中止になったのである。それは、なぜか。

 


 このあと、後世に語り継ぐ価値すらない、くだらなすぎる事件が、ここ桜咲家を舞台に繰り広げられたからである。次章ではその様子を見ていきたい。

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