035.県内会合だョ!全員集合
(この人が、夜鑑華白さん……)
天乃三笠は、しばらく動けなかった。美しいとしか言いようがない彼女に、目が釘付けだったのだ。
アキの「華白さんはすごい人だ」というのにも、頷けてしまう。まだ彼女の何も知らないけれど、それでもただ華白さんがそこにいるだけで、その場にいる全員を魅了するような独特の雰囲気を纏っていた。
(これが『流』――。すっごく、きれいな人だ)
「三笠?大丈夫か?」
夜鑑華白は、フリーズしている三笠に近づいて顔を覗き込んだ。
「なんかぼーっとしてるけど」
彼女の白い美貌が、目前にある。
三笠が喋れないでいると、華白はさらに心配そうな顔をした。
「大丈夫か? 顔赤いけど……熱でもあるか?」
彼女が三笠の額に手を伸ばそうとしたとき……何者かが、その手を掴んで止めた。華白は驚いて、手の主を見る。
「晴……?」
そう、賀茂晴が、天乃三笠に触れようとした夜鑑華白の手を止めたのだ。彼はため息をついて続けた。
「華白さん、自覚を持ってください」
「なんの?」
「あなたが近づくごとに、三笠のフリーズ具合が悪化していってるんですよ!」
「わ、わたしが悪い……?」
「そうです。いい加減、自分が醸し出している魅力に気づいてくださいよ。初対面でそんなに近づかれたら、男でも女でも、あなたの雰囲気に呑まれて話せなくなりますって」
「ああ、そりゃどうも」
(いや、褒めてる……んだけど、ここはお礼を言う場面じゃないっていうか……うん)
イマイチ噛み合わない華白との会話に、ハルは苦笑いをする。
「とりあえず、お邪魔しちゃっていいですか?もうみんな、来てるんですよね?」
アキが一歩進み出て、華白に提言した。
「ああ、そうだ。わたしは三人を案内するためにここに来たんだった」
ぽんと手を打つ千葉県『流』。今更ながら、華白は自身の役割を思い出したようだった。
「さあ、このメンバーで行う初めての県内会合だ。ようこそ、千葉県陰陽師の拠点・桜咲家へ」
夜鑑華白は、黒いマントを翻して歩き始める。ハル、アキ、三笠は彼女のあとに続いて玄関へと吸い込まれていった。
「この部屋に皆いるよ」
華白が三人を案内したのは、木張りの廊下をしばらく歩いた先の、大きな障子戸の前だった。
「三笠は、皆とは初めましてじゃないんだよな?」
華白の問いに、三笠は頷く。
「はっ、はい! 一応任務を一緒にやりました!」
「それはよかった」
華白もまた、三笠の答えに頷いた。
「じゃ、開けるよ」
シャーっと、かすかな音を立てて障子が開かれた。部屋の明るい電灯の光が、目の前に眩しく広がる。
何畳あるかわからないくらい広い座敷。真ん中に置かれている高さの低い机。奥には床の間と、掛け軸が見える。その整った和室の中には、見知った顔の三人が――――。
「あっ、ミカサちゃん!やっほー」
赤髪を肩の長さまで伸ばした制服姿の少女が、こちらに手を振ってくる。
「おい、舞花。あいつらのことも忘れるなって。なんだっけ名前。えーっと……カモ、カモ鍋……だっけ?」
ふざけたように三笠の後ろのアキとハルに視線をやるのは、赤髪少女によく似た顔の男の子。
そして――――。
「賀茂兄弟、ハルくんとアキくん、だろ?久しぶりだね。あ、でもミカサちゃんとは昨日ぶりか」
落ち着いた雰囲気を醸し出しながら、微笑んでくれる丸眼鏡の青年。
三笠の目が見開かれる。そしてその瞳は直後に、嬉しさでいっぱいになった。
「舞花さん! 舞桜くん! シュンさん!」
部屋に駆け出した天乃三笠を、待ち受けていた桜咲舞花が目一杯抱きしめた。
「ミカサちゃん!ようこそ、私たちの家へ!」
その後から、桜咲舞桜に敵意を向けた賀茂晴と賀茂明の双子がついてくる。
「おい、桜咲舞桜。さっき僕らに向かって『カモ鍋』って言っただろ」
「なんのことだろ? きーおくーにごーざいーませーん」
ニヤニヤしながら肩をすくめる赤髪の少年。
「ふざけんなよ、まじでお前のことを年上だと思えないんだが」
「おおっと、ナベくん……じゃなくてハルくん。一旦落ち着こうか。ボクは、十六歳ですけど、何か?」
「精神年齢は五歳だろ、舞桜先輩?」
「それを言うなら、ハルとアキは三歳かなー?」
「てっめぇ」
舞桜の先輩とは思えない言動に、ハルが拳を振り上げたとき――それより早く、三人の頭に激痛が走った。
「いってぇ!」
「痛っ」
「……華白さん!?」
バカ三人組の頭に拳骨を落としたのは、夜鑑華白だった。その紫色の瞳に、呆れたという光を浮かべながらため息をつく。
「お前ら全員とも、精神年齢二歳な」
「「なんか一歳下になったんですけど!?」」
佐々木峻佑は、舞花と三笠のもとへ向かった。
「ミカサちゃん、調子は大丈夫なのかな?」
「あ、はい!おかげさまで。実は今日も午前中は、うちのお店の手伝いをしてて。普通に動けました!」
「それはよかった」
「えー、ミカサちゃんのお家、お店屋さんやってるの!?」
「そうなんです……、小さなカフェを一応」
「カフェ!」
舞花の目が、一気に輝いた。
「いつか絶対お邪魔するから! ね、シュンさん! 一緒に行こ!」
「そうだね、それこそ陰陽師仲間で行けたらいいよね」
「確かに!県内会合、次はミカサちゃんのカフェでやろうよ!」
「お、それはいい考えだね」
いい意味でも悪い意味でも、一気に騒がしくなったお座敷を、夜鑑華白は見渡した。視界の端に、たんこぶを押さえながら再び言い争いを始めた某三人組がいたが、華白は無視することにする。
彼女は、両手をパンパンと打ち鳴らして言った。
「じゃ、早速『県内会合』始めるよー」
夜鑑華白
桜咲舞花
桜咲舞桜
佐々木峻佑
賀茂晴
賀茂明
天乃三笠
『祓』千葉県担当陰陽師の新しい顔ぶれ――。この七人の活躍が、これからの陰陽師と呪鬼の戦いの未来を大きく変えていくことは、今はまだ、誰も知らない。




