031.双子と三笠と
「んーじゃあ、俺はコーラフロートで」
「僕はアイスカフェオレ」
双子がメニュー表を指さしながらそれぞれ注文する。知っている人がお客さんって、なんだか変な気分だ。三笠は「少々お待ちください」とマニュアル通りの笑顔を向けて、父と母のいるカウンターへと急いだ。
「コーラフロートとカフェオレをアイスで、お願いしまーす」
父が「はいよ」と手を挙げて、すぐにとりかかってくれる。
その手際の良さに見惚れながら、三笠はアキとハルのことを考えていた。彼らが急に店に来てくれたのは、三笠のことを心配していたからだ。
……夏休み前の、放課後のやり取りを思い出す。アキが言っていたこと――『除の声主』である三笠が呪鬼から狙われることがあるかもしれないということ――が、現実となってしまった。あんなに気にかけてくれたのに、「大丈夫だから」で押し通して、霧花と二人で出かけた結果が昨日だ。……三笠のせいで、友人まで危険にさらしてしまった。
舞桜と峻佑が来てくれなければ、三笠と霧花は無事では済まなかっただろう。
「……私ってば、陰陽師失格だあ……」
思わずため息をつくと。
「なに? 何が失格だって?」
母に聞かれていたようだ。
「あっ、いやっ、何もないけど?」
慌ててごまかす。そう、父も母も三笠が陰陽師であることを……というか、まずこの世に呪鬼というものがいて、それらに立ち向かう者たちがいることも知らないのだと思う。もちろん、三笠がその世界に身を置いていることも。だから、極力それを知らせない方がいいし、何より心配させたくない。
「それより三笠」
母が聞いてきた。
「あの二人の男の子は、知り合いなの?」
ハルとアキのことを、遠くから指す母。三笠は頷く。
「うん、クラスメイト。隣の席の賀茂兄弟。双子なんだ」
「あら、そうなのね」
母がにこにこしている。
「さっき、ずいぶんと仲がよさそうだったから……お友達なのかなって。ただ、気になっただけよ」
(……うわー、これ絶対、さっきのハグシーン見られてたじゃん)
三笠は再び赤くなりながら、八つ当たりするように父を急かした。
「お父さん!できた?」
「できたぞー」
ナイスタイミング。三笠は心の中で父に感謝しながら、コーラフロートとカフェオレをお盆に載せ、逃げるようにハルとアキの元へと戻る。
「お待たせしましたー」
三笠の声に、並んで座っていたアキとハルが顔を上げた。
「わ、うまそ!」
コーラの上にたっぷりとソフトクリームが乗っているフロートを見て、ハルが目を輝かせる。アキの目の前にも、氷の煌めくアイスカフェオレが置かれた。
「ありがとう」
そうお礼を言うアキの眼鏡の奥の目が、いつになく優しく見える。
「じゃあ、ごゆっくり」
そう言って立ち去ろうとした三笠を、ハルの「え」という声が引き留める。
「ミカサ、まだ働かなきゃだめ?一緒にお茶しようよ」
アキも頷く。
「昨日の話も聞きたいんだが」
「え、でも私は今日、お店の手伝いするって決め」
「み〜かさ〜」
三笠の言葉を遮り、後ろから肩を掴んできたのは……母だった。
「お母さん!?」
「あなたたち、三笠のお友達なのよね」
三笠の母は彼女の横に立ち、席にちょこんと座っているハルとアキを交互に見た。
「はい」
ハルが眩しい笑顔を向ける。
「賀茂晴って、いいます。ミカサさんの隣の席です」
アキもそれに続く。
「賀茂明です。ハルの双子の兄です。お世話になってます」
二人でお辞儀をする様子は、やはりアキとハルは双子なんだなと思わせるくらい、揃っていた。
「あら〜、二人ともイケメンじゃないの」
母が三笠に小さく耳打ちしてくる。
「だから、私は二人のことそんな目で見たことないってば!」
同じく小声で反論するが、なんとなく顔が赤くなってしまっているのを自分でも感じる。
三笠が火照った頬を冷ますように顔を振っていると、母は賀茂兄弟に向かって言った。
「三笠と仲良くしてくれてありがとね。今日はもう三笠のお手伝いは切り上げさせるから、もしよかったらお店でゆっくりしていってくださいな」
母の言葉に、びっくりして顔をあげる三笠。
「え!お手伝い、終わり?」
「うん、もうこれ以上お客さんは増えないと思うし。せっかくお友達が来てくれたんだから、おしゃべりでもしてなさいよ」
「……ん、そうする。ありがと」
三笠はエプロンを外して、母に手渡す。そして、賀茂双子が座る席の向かい側に、ドスンと腰を下ろした。
「で、なに?私は何を話せばいいわけ?」
つっけんどんに言った三笠を見て、ハルとアキが何やらひそひそ話を始めた。
「なんかミカサ怒ってる?」
「ん。声主様はお怒りのようだ」
「なんでだろう」
「さあ」
「俺たちがイケメンだったから?」
いや、自分で言うな!――と、ハルにツッコみたい三笠であったが、ここはぐっと我慢する。母の言葉のせいか、さっきハルに抱きつかれたせいか、今日の三笠の心はどうにも落ち着いていないようだった。
「じゃあ、昨日のことを話せばいいのね」
三笠が言うと、双子は一斉にこちらを向いた。アキが頷く。
「うん。それを聞きたい。相手がどんなやつで、どう戦いが変化して……僕らはまだ、『除の声主が呪詛結界に囚われたらしい』っていう情報しか知らないから」
(なるほど……じゃあ、舞桜くんとシュンさんの話もしたほうがいいわね)
三笠はそう考えながら、口を開いた。
「わかった。話すわ……でも、こっちからも聞きたいことがあるの。聞いていいかしら」
「もちろん。俺らにわかることなら、何でも答えるよ」
「だがとりあえず、昨日の顛末から教えてもらいたい」
三笠は頷き、話し始めた――――。




