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【木曜17時更新】となりの晴明くん〜闇を祓いし者たちの陰陽奇譚〜  作者: 咲翔
【近畿横断・白虎戦編】

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099.歪む結界


 結界のせいで妙に明るい京都の道端で――佐々木峻佑は愛想笑いを浮かべていた。この目の前の、陰陽師仲間の少女からの追及に、どう答えるべきか悩んでいたのだ。


(なんでミカサちゃん達が此処に!? まぁ……理由を正直に言ってもいいんだけど、きっとこのミカサちゃんたちと一緒にいるあの男の人はきっと教師……ってことは、修学旅行中だったってことだよね)


 教育実習のあの件は、完全に峻佑が悪いのであって、それを現役の教師である彼に聞かれるというのは何となく居心地が悪いような気がして。


「あ、あはは……バレちゃったか」


 頭をかきかき、額には汗を浮かべながら峻佑は満面の笑みで進み出た。


「じ、実は京都に一人旅行しててね……」


 かみまくりながら言ってのける峻佑に、三笠とハルとアキは怪訝そうな表情を見せ、北山音羽を始めとする京都府陰陽師は「この嘘つきめ……」というジトッとした視線を向ける。


「あは、ははは、あはは……」


 口ではそう笑いながらも。


(やっ、やべっ、やべぇって。どうするんだこの空気!!頑張れ千葉大生!いや目の前に天下の京大生いるけども!負けるな!この冷たい視線たちに屈するな!あ、そうだ!違う話題に変えろ!変えれば良いんだこの空気を!!)


 焦った様子を思い切り顔に出しながら、峻佑は無理矢理に話を変えた。


「あ、えっと、なんでミカサちゃんたちは皆学校のジャージ着てるの?」


 これにはハルが答える。


「今修学旅行中なんだよ。ジャージはパジャマ。寝間着は学校指定の体育着か上下ジャージって決まってるから」

「深夜十二時にこの結界が張られたわけだから、まあ着替える暇もなくそのまま飛び出した感じ」


 アキも言葉を引き継いだ。「なるほどね……」と頷く峻佑の目が、一人だけ異彩を放っている少年に向く。


「んっと、じゃあ君は……? え、三眼……?」


 峻佑が怪訝そうな顔をした。それもそうである――彼は、坂井歩人だけは、平安時代の貴族の子供が着るような和服を身に着けていたのだから。しかも【境】のままであるため、額の眼を隠すことなく顕にしている。


「さかい、くん……っ!」


 三笠がしまったという顔をした。


 だって彼は……呪鬼すべての元凶とも言える『哀楽』の息子。いくら【境】自身が呪鬼や父親を憎んでいて、陰陽師に味方すると言っていても、所詮口先だけだと批判されかねない。かつ『哀楽』が絡んでいるのだとしたら、なおさら彼は“存在しているだけ”で陰陽師たちから恨まれてしまう可能性がある。


 坂井の正体がバレて、そして彼の真意が京都府の陰陽師たちに伝わらなかった場合――面倒なことになりそうなのも事実。


「あ、え、おれですか?」


 【境】がチラリと横目で三笠を見て、そのあと直ぐに峻佑に向き直った。


「あー、この目、実は手作りのステッカーみたいなやつなんですよ。あ、そうそう。おれコスプレイヤーなんです」


「こすぷれいやー……?」


 突然、虚偽を述べ始める【境】――もしかしたら、三笠の焦りを汲み取ってくれたのかもしれない。


「この髪色もカツラで、そのキャラの再現度高めてるんです。はい、この衣装も自前で」


 謎の、坂井歩人=レイヤー説が展開し始められる。明らかに戸惑いを見せる峻佑、後ろで頭を抱える春過とアキ。面白がるハル、不安げな三笠……。するとそのとき。




「ふざけないでもらえるかな」


 【境】の前に立つ一条と北山と峻佑を押しのけて、一人の高校生くらいの齢の少年が現れた。彼はツカツカと【境】へ歩み寄り、至近距離から半呪鬼を見下ろす。


「コスプレ? 違うだろ、俺はお前のその瞳が動くのをちゃんと見ていた。ステッカーが瞬きする筈ないし」


 陰陽師は、御札を取り出した。


「第一お前からは、呪鬼の匂いがする。それも強力な。何者なんだ? 答えなければここで俺が祓う」

「ちょっ、神宮寺さん! いくらなんでも今ここでってのは……」


 その少年を神宮寺と呼ぶ、また今度は違う声が聞こえてきた。声の主は茶髪のセミロングを右の方でハーフアップに結んだ少女。


「宮原だって信じないだろ、こんな嘘」

「でっ、でも、出会ったばっかでそれは……」

「なぁ、どうなんだ」


 神宮寺は【境】を睨みつける。その返答次第では、今すぐ和歌呪法を唱えそうな勢いである。それとは相反してどう答えてくれようかと余裕の笑みを浮かべる半呪鬼。宮原という少女をはじめ他の陰陽師たちは、戸惑ったような表情を浮かべている――が、その瞬間。





 ぐにゃり、と――。




 空間が歪んだ。


 まるで、スライムをかき混ぜたかのように周りの風景が曲がる。


「……今の、何?」


 北山音羽が思わず声を漏らす。一条がスッと除霊札を取り出した。


「結界空間が歪んだね。もしかしたら呪鬼の新たな攻撃かもしれない」


 その言葉に、三笠たちと京都府陰陽師たちもそれぞれ周囲を警戒する。【境】の胸ぐらを掴みそうな勢いだった神宮寺も、諦めて周りに注意をめぐらすことにしたようだ。




 再び、景色が傾く。渦を巻くような形で地面が揺れる。次の瞬間、突風が吹いて――。


「きゃっ」


 思わず三笠は体勢を崩した。ゴォォォと地鳴りのような音がして、風は一層強く吹く。


「天乃っ!」


 【境】が三笠の元へ駆け寄ってきてくれた。だが、依然として謎の風は吹き続け、空間の歪みもよりひどくなっていく。


「くっそ、何なんだこの歪みは……風もやべぇ! 何が起きてる!?」


 ハルが叫ぶ。しかしその疑問に答えられる者は居ない――――また更に、歪んで歪んで歪んで……。







 訳の分からないまま、陰陽師たちの視界は暗転した。

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