092.浮けと鍋
本当は鍋なんて用意されていなかったんですけどね。
想像を膨らませることも楽しいのです。
「おい、結局どーなんだ!?俺たちは何をすればいい?教会の小僧!」
「ちょっと待ってください!今考えてるんですから」
「もう時間がねーぞ!燃料がもたない!」
そんなことは分かっている。
だが次の一手は絶対にしくじれない。
何せ乗客全員の命がかかっているんだから。
やはり全員をこの飛行機から脱出させ、どこか別の空間にワープさせる方が安全か?
いや、今の僕にそんな力量はない。
ざっと見積もって200人をワープさせるなんて僕にはできない。
「もう時間切れだ!今から着陸態勢に入る!おい、乗客にアナウンスしてくれ!シートベルトをしっかり締めて衝撃に備えるようにだ!」
機長の怒号が飛ぶ。
……え?
乗客にアナウンス……だって?
待てよ待てよ待てよ?
「待って!アナウンスするなら言って欲しいことがあるんだ!」
乗客は200人。
ここ日本では全員が教科を履修している。
つまりだ、僕1人じゃなんとかできなくても乗客に力を借りればいいんじゃないか?
緊急事態だ。
民間人に協力を仰ぐのも問題なかろう。
某公安警察のように。
「キャビンアテンダントさん、いいですか?乗客にアナウンスするときに……」
「わかりました。そのようにいたします」
「おい俺はどーすりゃいいんだ!?」
「機長さんは着陸、いや着水の体制を整えてください!」
「着水……だと?海にでもこの機体を落とす気か!?」
「大丈夫です。僕を信じてください」
「俺は信じねーよ。信じるのは自分の操縦の腕だけだ」
「それで構いません。僕は機長の腕を信じています」
「ご搭乗の皆様にご案内いたします。当機はまもなく着陸いたします。シートベルトをおしめになってお待ちください。また、少しでも安全に着陸するため、教科が国語、もしくは英語の方は私のカウントに合わせて、「浮け」もしくは「float」と唱えていただきますようお願いいたいします」
「はん、考えたな。自分1人の力じゃどうしようもないから他人の力も借りるってか」
機長が煽るように喋りかけてくる。
「誰だって自分が死にたくはありませんからね。国語や英語の本質は言語。本が全ててはありません。それに達人級に教科を扱えない限りはこの飛行機を完全に浮かせることは不可能です。少しでも衝撃を和らげるための保険ですよ。さ、機長!着水の準備をしてください」
「着水ってお前、水なんてどこにも」
「へい、いらっしゃい、いらっしゃい。それともサラドはお嫌きらいですか。そんならこれから火を起してフライにしてあげましょうか」
「……やってくれるじゃねーか、おい、衝撃に備えろ!着水するぞ!」
「ご搭乗の皆様、私のカウントが0になりましたらご唱和ください。5、4、3、2、1」
「0」
「「「浮け」」
「「float」」
ものすごい衝撃とともに飛行機は、大きな鍋に着水した。
まるで親分がフライを作るかのような大きな鍋に着水した。
毎日更新を目指します!
感想、評価、ブックマーク、なんでも励みになってます!
よろしくお願いいたします。