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008.安堵と代わり

 男子高校生の朝は遅い。

…といっても流石に今日は早起きだった。

眠りが浅かったのもあるが、ねぇちゃんのお見舞いに行ってから学校に行きたかった。


 いつも準備してあるはずのご飯とお味噌汁がない。

…ねぇちゃん、と悲観していると、

「ピンポーン」

とチャイムがなる。

「…はーい?」

翔子だった。


「きっと杏ちゃんのことだからお姉さんのお見舞いに行くんじゃないかなーって。私も行きたいなーって」

バレバレだった。エスパーか?エスパータイプなのか?

…よく見ると翔子の目にもくまがあった。

どうやら眠りが浅いのは僕だけではないようだ。

ねぇちゃんを想っているのが僕だけではないという当たり前のことに気がついて、少しだけ嬉しかった。

「すぐ準備するから、ちょっと待ってて!」

「…はーい」


「昨日は寝れた?」

「それはこっちのセリフ、翔子くま隠せてないよ」

「あはは…私も色々考えちゃって、でもうじうじするのは違うかなって!お姉さんから託されたもの!」

おお、ここまで考えることが同じだとは。

やはり幼馴染が恐ろしい…が気持ちが楽になった。


 病室に入ると、ねぇちゃんは眠ったままだった。

だけど、ほんの、ほんの少しだけ表情が落ち着いてる気がした。

生きているという事実と、表情をみて僕は心が落ち着くのを感じた。

ベッドの脇にはチューリップの花と文庫本サイズの『枕草子』が置かれていた。

「…どうやら先客がいたようね」

「うん、そうだね」

少し、いやとても嬉しかった。

全く、あの先生は大雑把すぎるんだよ。


「じゃあ、ねぇちゃん、行ってきます」

「行って来ます、お姉さん」

僕たちは病室を後にした。



「泉先生休職するんっしょ?んで、新しい先生がくるんっしょ!?」

開口一番、快斗が話しかけてくる。

僕じゃなくても、我が1-Aは「お休みする泉先生と代わりの担任は誰か」の話題で持ちきりだった。

「杏ちゃん、お姉さんのこと誰も知らないみたいだね」

「だね、大人は隠すのが上手いからねぇ…」

どうやらねぇちゃんは休職ということになっているらしい。


結論から言うと、代わりの担任は小室先生だった。学年主任兼1-A担任ということらしい。

菅原は「げっ…」と声を漏らし睨まれていた。

小室先生は何事もなかったかのように振る舞っていた。

大人ってすごい。あれだけのことをうちに秘めて仕事をするんだから。


帰りのHRで小室先生が、

「4月の予定を配る。我が開地高校に部活動はないが、月末には「見せ合い」があるから忘れないように」

と凛とした声で話した。

ふむふむ、僕は部活にあまりいい思い出がないのでありがたい。

翔子は少し残念そうにしていた。

スポーツ少女である翔子にとっては悲しい事実だろう。

…ちょっと待て、見せ合い…?

なんだそれは?

僕が疑問に思っているとやっぱりと言うべきか、せっかち君が口に出して聞いてくれた。

「小室先生、見せ合いってなんっすか?」

「我が開智高校では4月末、隣のクラスに「教科」を披露し合う機会がある。それが見せ合いだ」

「え、じゃあ他のクラスの奴らに教科を試せるってことっすか?楽しみっす!」

「勘違いするな。傷つけ合うことが目的ではない。高め合うことが目的だ。それを忘れるな」

やはり小室先生の言葉には含蓄がある。

さすが学年主任といったところか。


「他に質問はないか?ないようだな。以上。解散!」

入学初日と二日目は密度の濃い時間を過ごした。

流石に三日目は何もないだろう。

そう願いながら教室を出た。

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