080.蝶と夢
今までとは明らかに違う感じがした。
と言うよりこれは……。
「なあ、キョウ。その格好」
「え?」
振り向くと、ケンはさっきまでの姿ではなかった。
「ケン!その格好は!?」
蝶だった。
鮮やかな青色の蝶からケンの声がする。
「こっちのセリフでござるよ。キョウが赤い蝶になっちゃったでござる」
わけがわからない。
今怒っていることに対する理解が追いつかない。
「落ち着けキョウ。状況を整理するでござるよ」
その通りだ。
落ち着け。
天野先生が作り出した場所にいると言うことは少なくとも危険はないと思う。
僕たちは3つ目の部屋に来た。
この部屋は真っ暗ではなく月明かりがさしている。
そして僕たちは町に変身してしまっているということになる。
「僕ら飛んでるぞ!」
当たり前だ。
蝶は飛んでいる。
僕は羽の動かし方なんて知らない。
でも本能というやつだろうか。
飛ぶことはできている。
でもこれじゃ……。
「本を探すどころか扉を開けることができないでござるよ」
「確かに。でもそもそもこの部屋には扉がないぞ?」
「とにかく探索するでござるよ。月明かりもあるし辺りが見渡せる」
「そうだな。色々探してみよう」
この部屋を探索してわかったことは、扉がないことと今まで通り本棚に本が並べられていることだった。
つまり、手詰まりだ。
新たに本を探してその本の理解度を深め、国語の教科を使おうとしてもそもそも本が読めない。
「もう降参ですか?泉先生。思い出してください。あなたはこの状況を知っているはずです。幼い頃に読んだでしょう?本の背表紙を見て題名を思い出すのです」
天からの天野先生の声だ。
なんで天野先生が僕の幼い頃を知っているんだ?
いや、それよりもこの状況を知っているだって?
蝶の本か……。
そんな本あったっけ?
待てよ、確か昔ねぇちゃんが言ってたな。
「今の自分が夢の中だと思ったことはない?今の自分が現実なのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか。これはそんなお話よ」
これだ!
ええと、本の題名は確か……。
「『胡蝶の夢』でござるな」
「それだ!よく僕の考えてることがわかったな」
「いや、キョウの考えを汲み取ったわけじゃないでござるよ。自分で考えてたんだ。有名な話だからね」
「まあ、これで僕たちに怒っている現象がなんなのかは把握できた。本棚を探す手間も省けた。つまりはここは『胡蝶の夢』が具現化した空間ということだな」
「それでそれはいいとしてどうやってこの扉がない部屋から出るでござるか?」
た、確かに。
これじゃ振り出しじゃねーか。
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