079.虎ととんち
見つけた。
この空間から出るためのトリックをな。
まったく、文字通りほんとにとんちがきいている。
「おい、ケン!もう本は探さなくて大丈夫だ」
「何かわかったでござるか!?」
「正確には1冊見つけて欲しいんだがな」
「よしきた、なんの本を探せばいいんだ?」
「一休さんだ」
僕たちは本を探す。
絵本はたくさん読んできたけど『一休さん』は読んだことがない。
昔テレビで見たくらいだ。
だから、国語の力として発揮するには理解度が足りない。
「あった!これだ」
「でかしたケン!ちょっと貸して!」
僕は一目散に本に目を通す。
「ちょ、ちょっとキョウ!だんだん体が半透明じゃなくなってきてるでござるよ」
なに??
まじか。
どうやら僕は2つのことを同時にするのが苦手らしい。
できなくはないだろうけど。
「もうちょい!」
「むりむりむり!今にも虎に食われるでござる!」
「読み終わった!」
僕は本を閉じ、叫ぶ。
「一休さん!屏風の虎!」
グァウルゥゥゥ
だんだんと虎の唸り声は小さくなる。
「どういうことでござるか?」
「扉の絵をよく見てみろよ。絵の中に真っ白な空間があるだろ?ちょうど虎が描かれていたような」
「む、たしかに。でもそれがなんなの?」
「こういうことさ」
虎は絵の中へと溶け込んでいく。
やがて完全に扉と同化し、虎の牙の辺りにドアノブが出現した。
「あの虎はもともと扉に描かれた絵だったんだよ。多分それを天野先生が国語の教科で実体化させたんだ。ということは、同じ力を行使すれば元に戻るってわけ。ちょうど牙のところにドアノブがあったから、ドアノブも鍵もない変な扉になってたってわけだ」
「なるほど?だから『一休さん』なんでござるね」
「ああ、読んだことなかったからちゃんと理解できてるか不安だったけどうまくいってよかったよ」
僕たちは虎の扉を開け、進む。
「よく気がつきましたね。泉先生は『一休さん』は読んだことがなかったのですか?」
天から天野先生の声がする。
「ええ、専門外というかなんというか」
「国語の教科を使うのであればどんなジャンルの本にも目を通しておくべきです。応用が効きますからね」
「天野先生のおっしゃるとおりです」
ほんとうに。
僕がテレビで一休さんを見ていなかったら永遠にこんな方法には気が付かなかっただろう。
「次で最後です。次の部屋の扉を開ければ私のところへ戻ってくることができます。がんばってくださいね」
「ええ、もちろんです」
「良い感じに知識と応用力が育っていますね。順調です」
最後の天野先生の言葉は誰にも聞こえなかった。
さて、最後の部屋はどんな感じかな?
「ん?このへや、暗いけど真っ暗ってわけじゃないぞ?」
「キョウ、上を見るでござる」
今までの部屋とは違い、窓らしきものから月明かりがさしていた。