075.注文と国語主任
ついに国語主任登場なのだ。
「親切な文言でござるな。キョウ、入ろうよ」
「何言ってんだよ知らないのか!?これ、「あれ」だぞ」
「あれ?」
「宮沢賢治ぐらい履修しておけ」
どなたもどうかお入りください。
決してご遠慮はありません。
これは『注文の多い料理店』の一説だ。
2人の若い紳士が料理されて食われそうになる話。
状況はそっくりじゃないか。
「ああ、小さい頃読んだことがあるでござるよ。なんとも滑稽な話だったなぁ」
「今僕たちがそうなろうとしてるんだよ!」
「でも入る以外にすることはないでござるよ?」
……ふむ。
確かに怪しすぎるが、住所はあっている。
それにここは教会「国語」支部だ。
こんな仕掛けがあっても不思議ではない。
「さ、行くでござるよ」
「お、おいちょっと待てよ。もう少し考えてからの方が」
「キョウ、よく考えるでござる。国語主任は居場所を隠していない。それでもずっとここに居続けている。つまり「入れない仕掛け」がしてあるか、国語主任が「強すぎる」かもしくはどちらもってことだよ」
「つまり僕らは選別されてるってことか」
「そういうことだと思うよ。我々は招かれざる客ではないから扉が開いた。招かれざる客の場合は2人の若い紳士みたいに酷い目に遭うんでござるよ」
なるほど。
それなら安心か。
「よし、じゃあ入ろう」
僕たちは扉を抜け、教会国語支部へと足を踏み入れた。
ちょっと進むと、また扉があった。
今度は赤い字で、
お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。
と書いてある。
……これやばいんじゃないの?
「おいケン、ほんとに大丈夫なのかよ」
「……あっしもやばいかもって思ってきたでござるよ」
一人称があっしになるくらいにはケンもやばさを感じていた。
でもここまできて引き下がる理由もない。
主任に合わなきゃ話も始まらないし。
「……いくぞ」
「それでこそキョウでござるよ」
僕たちは髪を整え、泥を落とし、扉を開けた。
そこは図書館のようだった。
カウンターがあり、日本分類十進法で分けられた山のような本が本棚に並んでいる。
そして一際目を引くのはもちろん、カウンターに座り、本を読んでいる男だ。
30代くらいだろうか。
銀縁の眼鏡をかけた細い目をした男だった。
男は本から目線を外さない。
「あ、あの国語主任さん……ですよね?」
「待っていました。いかにも私は国語主任の天野時人です。それからしっかりとした言葉を使ってください。国語主任に「さん」をつけるのは間違っています。校長先生さんとは言わないでしょう?泉「さん」」
開口一番注意された。
それが国語主任との邂逅だった。
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