060.戯言と精神
それでも僕は戯言使いに憧れています。
「自分で自分の教科の力をどう思っている?」
「自分の力?」
「そうだ。君は教会試験や学校で教科の力を使ってきた。その力についてどう思う?」
考えたこともなかった。
どう答えるのが正解だろうか。
便利なんて安い解答は避けるべきだろう。
強さも安直だ。
どんな強さかを自分で定義できてないから言葉が巧みな重松さんに突っ込まれる可能性が高い。
「ねぇちゃんとの繋がり……ですかね」
「よほど君にとって姉は重要な存在なのだな」
「当たり前です」
家族が大事じゃない人なんていないだろう。
「ふん。当たり前、ね。では姉が意識を取り戻したら君の力は存在価値を失うというわけだな?」
「え……?」
「君は心の中で姉がもう意識は戻らないと思っている。だから遺品のように、形見のように教科の力を見ている」
「あなたに僕のなにがわかるんですか!!」
「人間は心を言い当てられると怒るものだ」
「ふざけるのもいい加減にしていください」
「ふざけてなどいない。質問に答えたまえ。もし姉が意識を取り戻したら、君は君の教科の力に存在意義を見出せないということだな」
ぐ……。
言い返せない。
確かに重松さんのいう通りだ。
僕はねぇちゃんに縋っていたのかもしれない。
どこかでもう戻ってこないものだと諦めていたのかもしれない。
じゃないと、「ねぇちゃんとの繋がり」なんて言葉が出てくるはずがない。
「前を見ろ。こちらを向け。君は姉の意識がなくなる前なんと言われた?君はなんのためにここへ来た?」
ハッとする。
譲れない教科を一つ、それだけで守りたいものを守れるから。
ねぇちゃんの言葉だ。
僕は、僕は、僕は。
「守りたいものを守るために、ここへ来ました。僕にとって教科は譲れないものです」
「ふん。悪くない答えだ。それでいい」
重松さん、あなたって人は……。
これでは面接ではなくカウンセリングだ。
これでは面接ではなく精神の修行だ。
翔子の「気をつけて」はこういう意味だったのかもしれない。
まるで戯言殺しだった。
「では最後の質問だ。最終試験で残っている受験者の中で一番戦いたくない人は誰だ?」
ハンターかよ。
まるっきり会長じゃねぇか。
この人も漫画好きなのかよ。
「僕は理由があれば誰とでも戦います」
「ふん。漫画のキャラクターみたいな答えだな」
質問者がそんなツッコミをするな。
「ではこれで面接を終わる。内容は他の受験者には伝えないように」
「わかりました」
まさか最終試験はタイマンなんじゃないだろうな?
1勝で合格で負け上がりのシステムじゃないだろうな?
「では、退出したまえ」
「はい、失礼します」
時計の針を見ると3-1に入って10分しかたっていなかった。
人生で一番長い10分だったかもしれない。
ピンポンパンポーン
「最後に二谷、3-1へ来るように」
最後は二谷か。
僕は1-1へと戻るため、階段を降りる。
途中で二谷とすれ違う。
「お、二谷、緊張せずいけよ」
「……君に言われなくてもわかってるさ」
気のせいか、どことなくぎこちない気がした。
まあ二谷にかぎって緊張することはないだろう。
そう思い直して僕は1-1へと向かった。
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