055.引力と見立て
みなさんは『羅生門』の下人の行いは正義だと思いますか?悪だと思いますか?もしくは……。
「いいか?作戦は……ゴニョゴニョ……」
「わかったわ」
「了解」
前者は翔子、後者は麗花。
それぞれが返事をしてくれる。
「よしじゃあグラウンドの中央に移動しよう」
僕たちはアカウントを退けながらグラウンドの中央に向かった。
「じゃあ麗花。頼む」
「gravity」
麗花の言葉で受験者とアカウント、つまりグラウンドにいる全員が中央に引き寄せられる。
「う…おぉ……」
凄まじい引力だ。
麗花め、さらに教科に力が強くなっている。
「杏介、次はあなたよ」
「オッケー!おうたえほん」
マイクを片手に僕は叫ぶ。
「快斗!聞こえてるだろ?みんなを思いっきり上に突き飛ばしてくれ!絶対に怪我はさせない!」
「……ったいだろうな?」
「え?なんて?」
「絶対だろうな?俺を味方を攻撃した戦犯なんかにさせるなよ!?」
「もちろんさ」
「風速20m!!!」
ものすごい風と共に中央に集まった人たちが空へと舞い上がる。
アカウントも受験者も関係なく舞い上がる。
ただ1人を除いては。
僕たちの教科の力を上回る「教会技術主任」を除いては。
「なるほど、こうやって私は炙り出されたというわけか。少々乱暴なやり方だが悪くない。だが、忘れてはいないかね?私はアカウントと自由に位置を変更することができるんだぞ?」
マイクを片手に僕は叫ぶ。
「ええ知っていますよ。でもこれでいいんです。一瞬でも重松さんが受験者から離れ、1人でいる状況を作り出すことができればね」
「何?」
「羅生門!」
「無駄だ、その異能はすでに見切っている」
『羅生門』のラストでは下人が老婆から引剥を行う。
そのシーンが再現できたなら。
もし、重松さんが1人でいる状況を作り出し、重松さんを老婆に身立てることができたなら。
つまりは盗みを行うことが可能ってわけだ。
僕は快斗の風に突き上げられながらもマイクを持つ手とあ反対の手を伸ばし、こう叫んだ。
「では、己が引剥をしようと恨むまいな」
「!?」
瞬間、黒洞々たる夜が広がる。
瞬間、雨の音も静寂に変わる。
「……これ……はなんだ!?」
「重松さん、羅生門読んだことないんですか?下人は正義とは、悪とは何かを考えながら、葛藤しながら老婆から盗みを行うんです。今僕が重松さんから栞を湯澄んだようにね!」
僕の手には4つの栞が収まっていた。
「ふん、大胆に盗むものだな。だが君たちはこのままだとグラウンドに落ちてしまうぞ?」
「その点もご心配なく。あなたはそれを防げる力をすでに知っているはずです」
「トランポリン!」
グラウンドの中央に巨大なトランポリンが出現する。
ポーン、ポーンと1000人近くが宙を行き交う。
「重松さん、これで試験は合格ですよね?」
「まだ1分残っているぞ?取り返すに決まっているだろう?」
「追わせるわけがないでしょう?」
「何?」
「外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。下人の行方は、誰も知らない」
さっきのように暗闇は広がらない。
雨もまた降り続いている。
だけど、
「重松さん、あなたは老婆に「見立てられた」んだ。事実は小説よりも奇なり。なら、その逆も然り」
「………。」
重松さんは黙っている。
「あなたは僕より圧倒的に強い。いずれ小説の事実を覆すでしょう。でもなんの対策もなく1分という限られた時間では僕を追うことは不可能だ」
ビーーー
唐突にブザーが鳴る。
「!?」
僕は音の発信源を探る。
「安心しろ、二次試験終了の合図だ。……ふっふっふ。悪くない。悪くないぞ。君たち4人。ああ、最初にぶんどったやつを入れて5人か。よかろう。栞をとったという事実は曲げられない。合格だ!」
「「っしゃぁぁぁ!!」」
空中で、トランポリンで飛びながら、快斗と僕は声を揃えてはしゃいだ。
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