053.アカウントと仮説
僕はというと依然雨の中を走り続けていた。
というのも止まっていたら殴りかかられるし、反撃してもしその人が本物の受験者だった場合申し訳なさすぎる。
試験だからと割り切って、全く理由もなく知らない人に攻撃を仕掛けられるほど僕は精神が育ちきってないんだよ。
だからとりあえず走っていた。
攻撃を躱す、いや攻撃を受けないために。
せめて本物かどうかさえわかれば……。
と、思考しながら走っていてあることに気がついた。
二度の攻撃は全て拳によるものだったな。
もしかして「教科」まではコピーできないんじゃないか?
そう思って周りを見渡すと、雷やら炎やら教科の力を使っている人は散見される。
だけど、使わず殴っている人が大半だ。
とりあえず「コピー人間は教科を使えない」という仮説をもとに検証してみるか。
これは攻撃じゃない、仮説を検証するという目的のもとの実験、当たっても痛くはない。
そう自分に言い聞かせ、
「からすのパンやさん!」
僕は叫んだ。
前方に空からたくさんの種類のパンが降り注ぐ。
しかも雨でぐしょぐしょのパンが。
前方には30人ほど人がいる。
もしコピー人間が教科を使えないなら、防ぎようがないはず。
もし仮説が正しければ本物の受験者は教科の力でパンを防ぐはず。
…………どうだ!?
!!
防いだのは1人だけだ!
電気の幕のようなものを使って防御壁をはっている人が1人。
あとはみんな手でパンを防いでいる。
決まりだ!
コピーは教科を使えない。
つまり教科の力を使っていない人を攻撃すればいいわけだ。
「風速10m!」
お、この声は!
「教科の力を使っているということは本物の快斗だな?」
「当たり前っしょ」
「どーする?どーやって重松さんを見つける?」
「……見つけるもなにも目の前にいますよ」
「!?」
「風速10m!」
風の勢いに押され、僕は吹っ飛んだ。
「……どーいうことなんですか?コピー人間は教科を使えないんじゃないんですか?快斗の顔をした重松さん」
「コピー人間とは失礼な。アカウントと言ってくれたまえ」
名称なんて今はどうでもいいだろ。
「私がなんのために私の作った空間で一次試験を受けさせたと思っているのかね」
「一体……どういうことですか?」
「流石に私も知らない教科の力をアカウントに与えることはできない。「知らない教科の力」ならね」
「……なるほど、ここにいる受験者は重松さんの作った空間の中で監視されながら一次試験を受けていたってことですね?」
「その通り。ここにいる人間の力は全て把握してアカウントにインプットさせてある」
「じゃあ今まで教科を使っていなかったのは……?」
「気づきを与えるのは教員の仕事だよ。解けたら問題のレベルを上げるのは当然だろう?もっとも、気づいたのは君で3人目だがね」
この人、逃げ回っているようでちゃんと受験者のこと見ているんだ。
まるで学校のテストの試験官のように。
「さて残りは10分だ。頑張りたまえ」
「重松さん、1つだけ質問させてください」
「答えられる範囲で答えよう」
「一次試験の時、監視していたとおっしゃていましたよね?」
「いかにもその通りだが?」
「一次試験で使っていない力は?」
「君はなかなか感が鋭いね。私は嫌いではないよ。ノーコメントだ。だが教会試験を受けに来ておいて、力を温存しておくとは考えにくいと思うがね。相当な実力差があったのなら話は別だが」
「……それだけ聞ければ十分です」
「いくっしょ!風速10m」
ぐっ……。
さっきと同じように風に飛ばされる。
どうやら目の前のコピー人間……いやアカウントからはログアウトしたようだな。
喋り方がインプットされた快斗の口調に戻っている。
だけどさっきの会話でヒントを得たぞ。
残り10分弱。
雨は降り止みそうになかった。
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