051.天候としゃぼん玉
基本横書きなので数字を使いたいんですが、つい癖で特別な意味がこもっている時は漢数字にしてしまいます。
合宿で麗花と合わせ技を試した時、『てぶくろをかいに』を攻撃技としては試さなかった。
攻撃技としては。
「これで体育館の天候は私たちが支配したわ」
「支配って、大袈裟な。重松さんと小室先生の技から脱出できただけだろ?」
満点の星空も木屑の嵐も消え、今は静かに雪が降り積もっている。
防御技、いやここは某死神の漫画っぽく天相従臨と言った方がかっこいいかな。
「杏ちゃんと絢辻ちゃんすごい!……いつの間にこんな、二人での技、使えるように、なってたのよ?」
なんか翔子の言葉が途切れ途切れだ。
え、怖。
「いや、ほら合宿の時にね?決して秘密の特訓してたわけじゃないよ?決してね?」
「違うわ、秘密の特訓をしてたのよ」
えぇ、麗花サン……僕の味方じゃないの?
「ほらそうやってすぐバレるような嘘つく!杏ちゃんのよくないところ!」
「痴話喧嘩はいいけどさ、時間もないしそろそろこっちからも動くっしょ!」
「そ、そうだよ。快斗の言う通りだよ。栞を取らなきゃいけないんだから」
「痴話喧嘩かどうか置いておいて、菅原君の言う通りね。重松さんはグラウンドの方へ出て行ったわよ。小室先生はまだ目の前にいるけど」
銀世界の中、小室先生は仁王立ちして、僕たちを待ち構えていた。
もう大雑把を通り越して男らしいんですけど。
「で、杏ちゃん、菅原君、絢辻ちゃん。重松さんと小室先生のどちらから栞をとろうとしてるわけ?」
「「「重松さん」」」
「……さすがの私も生徒にそこまで拒否されると傷つくのだが?」
学年主任の先生って怖いよね。
絶対逆らいたくない。
「まあ、とろうとしてこないものに攻撃する気もない。そちらはそちらで頑張りたまえ」
「ほなうちはあんたから盗らせてもらうで!」
「私は真っ向から受けて立つ」
ほらみろ。
こんな男前な女性教師からものを取ろうだなんて僕のプライドが許さないね。
怖いわけじゃないよ。
「爆音波!」
粉雪は吹き飛ばされもとの体育館の風景へと戻る。
「ほう、君の教科も音楽か。面白い」
「敵は1人じゃないですよ。歯車!」
今度は宮坂先輩が小室先生目掛けて攻撃を仕掛ける。
わかっていたことだが、試験官2人に対して二次試験受験者は80人。
単純計算で40対1。
乱打戦になるのは目に見えていた。
「よし、今のうち!俺たちは重松さんを追うっしょ!ほら、二谷も行くっしょ」
「え、僕もう栞とったんだけど?」
「何言ってんだよ、このままここにいたら小室先生の戦いに巻き込まれるっしょ?それに友達なんだから俺たちと一緒に行くっしょ!」
「……まあいいけど」
快斗、二谷、翔子、麗花、僕の5人(正確には僕たちの後を追う約30人くらい)は重松さんを追うべく、雨の降り頻るグラウンドへと走った。
「ふむ、50人ほどここに残ったか。逃げる相手を追う方が簡単だと私は思うがな」
「何を言うとるん。獲物が前におるんやったら倒せばええだけの話。制限時間がある試験で逃げる相手を確実に仕留めるんは難しいんとちゃうか?」
「その言葉は私より強いものが言う台詞だな」
「ここには約50人もおるんよ?さすがの教会主任様でも勝てへんやろ!」
「……私は大雑把な性格らしい。そして、あまり気も長くのでね」
「しゃぼん玉とんだ、やねまで飛んだ、やねまで飛んで、こわれて消えた」
「!?あかん、みんなふせ!」
歌い終わるのと叫ぶ声はほぼ同時だった。
「……「しゃぼん玉」では、人の命をしゃぼん玉に例えたのではないかという説もある。安心しろ。手加減はした。君たちが本当に「こわれて消えた」ら困るのでね。さて、そこの関西弁の君、一体何人対私だったかな?」
「……今のあんたの攻撃で4対1や」
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