045.チェーンソーと歯車
回るものってなんか癖になりますよね。
高身長に学生服。
明らかに一軍男子だ、さぞおモテになるんだろうな。
それが僕が感じた彼の第一印象だった。
……チェーンソーさえ持ってなければ。
「君も学生服を着ているね、それに翔子ちゃんとも知り合いみたいだ。ということは高1かな?」
ほらみろ、おそらくはさっき知り合ったばかりの翔子を下の名前で呼び捨てだ。
「そういうあなたは3年生っぽいですね」
「よくわかったな、俺は高3。君たちより先輩だよ」
「先輩だからってそれが強さの指標じゃないですよね」
「さあ?戦えばわかるさ」
互いにジリジリと嫌な緊張感が流れる。
全く、翔子を相手にするよりはよっぽど気楽だが、楽な相手ではなさそうだ。
「ふっ!」
チェーンソーを片手に僕の方に突っ込んでくる。
この人、チェーンソーということは技術か?
いや、ジェイソンがモチーフだとしたら国語でも英語でもいけるな……。
「羅生門」
僕は門を作り距離をとる。
キュィィィィィン
歯切れのいい音がして門が真っ二つになった。
切れ味良すぎるだろ。
いやチェーンソーだから切れ味ではないのか。
だが、以前の僕とは違うぜ!
真っ二つになった羅生門の上から、老婆と武士が出現し、彼に襲いかかる。
この1ヶ月で『羅生門』を読み込んだからな。
理解度が上がったんだよ。
正義と悪の感情についてもばっちりだぜ!
ギギギギギとチェーンソーと武士の刀が擦れ合う音がする。
翔子と一ノ瀬さんとの音とは全く別種類の音だ。
「まだまだだね」
と、確かにそう聞こえた。
テニスでもしてるのかよ、と心の中でツッコミを入れていると、
ブゥゥゥンとチェーンソーが僕の頬をかすめた。
「君は登場人物の武士に任せて、刀を手に僕と対峙していない。僕がそんな君にチェーンソーを投げるのがそんなに不思議かい?」
「……単純にものを投げるのに驚いただけですよ。技術屋や演奏者は自分のお気に入りの道具や楽器を粗末に扱うんですね」
「違うさ、お気に入りの道具だから安心して戦いの中で使えるのさ」
僕ならお気に入りの道具は手放さないけどなと思った。
いや、思い入れのある絵本とかを教科の力にしているのは僕も同じか。
「それに君は一つ勘違いをしている。俺は技術屋なんかじゃない。俺、宮坂光輝の教科は」
「理科だ!まわれ歯車っ」
今度はチェーンソーではなく、無数の歯車が僕めがけて飛び交う。
これ回避するのは不可能じゃないか!?
「からすのパンやさん!」
無数の歯車に対抗するなら無数のパンだ。
「ふーむ、なかなかやりおる」
プシュっと、僕の頬と、両手からから音がして、血が滴る。
やっぱり全部の歯車をパンで受け止めるのは無理があったか……。
大部分の歯車はパンに絡まって勢いと落とし、地面に落ちたが、何個かは僕を掠めたようだった。
「回転の力はすごいだろう?回れば回るほど威力が増す。ほら、君の後ろの壁にも歯車が刺さってまだ回転しているだろう?」
なるほど、物理が得意ってわけね。
と、冷静に分析してみたものの、結構なピンチだった。
宮坂の羅生門でもからすのパンやさんでも防ぎきれない。
ましてやこの小さな空間の中では逃げることも……。
僕の前方では依然翔子と一ノ瀬さんがバチバチにやり合っている。
カンカンカンカンうるさいんだよ。
もっと広い場所ならまだ手はあるのに……。
「チェーンソー、歯車!」
やべえ。
宮坂の猛攻が続く。
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