044.クラリネットとチェーンソー
僕は中学生の時は吹奏楽部でした。
「絵のない絵本」名曲です。ぜひ聞いてみてください。
「なんや?自分ら知り合いかいな?」
一ノ瀬さんが聞いてくる。
知り合いも何もまさか翔子が相手とは……。
これってつまり僕のペアと翔子のペアどちらかしか一次試験は合格できないってこと?
くっ……想定外だ。
翔子と戦いたくはない。
もちろんそれは翔子も同じだろう。
なんてうじうじ考えていると、一ノ瀬さんが翔子に向かって駆け出す。
「多分向こうの女の子は泉の知り合いなんやろ?やりにくいやろうからうちが相手するわ。泉はそっちの男の子を頼むで」
「ちょ、ちょっと一ノ瀬さん!」
僕の声かけは無駄だった。
「クラリネット、「絵のない絵本」!」
クラリネットの綺麗な音色が響く。
響くだけじゃなく、振動を波状になって翔子に向かって飛んでいく。
なるほど音楽といっても小室先生みたいに歌ではなく「楽器」を用いた攻撃なのか。
「翔子!避けろ!」
「50m走」
翔子は加速し振動波を避ける。
「泉!自分どっちの味方なんや!?そんな甘い考えで教会は務まらんで!」
「それはわかってます。でも、翔子は幼馴染なんです」
「せやからうちが相手しとるんやろが!ここは学校やない。教会の試験会場や。甘さは捨てていきや!」
また一ノ瀬さんは翔子に向かう。
くそ、完全に一ノ瀬さんの方が正論だ。
しかも翔子と戦いたくないという僕の考えを見透かして代わりに相手をしてくれている。
そうだ、甘さは捨てろ。
僕は、僕たちはここに何をしにきたんだ。
みんなを守るために教会に入りにきたんだろ。
「杏ちゃん!手加減なんて私許さないから。私にも優しいの杏ちゃんのいいところだけど、よくないところ」
「翔子……」
どうやら翔子の方が覚悟を決めるのは早かったらしい。
「お前こそ手を抜くなよ」
僕がそういうのと同時に一ノ瀬さんが翔子にクラリネットを持って突っ込む。
え、おいおい楽器を演奏して振動で攻撃するんじゃないのか!?
「どぉぉぉぉら!」
一ノ瀬さんはクラリネットで翔子に殴りかかっていた。
「棒高跳び!」
翔子は高跳びの棒で防ぐ。
「なんや、教科は保険体育っぽいな。うちの教科が音楽やからって非力やと思ったら大間違いや!」
「そんなこと思ってませんよっ」
カンカンカンと、クラリネットと棒が弾ける音が響く。
二人とも剣士みたいな戦い方だ。
「よそ見しすぎ」
キュイィィンと嫌な音が僕にせまる。
「!?」
僕は大きく後転する形で回避する。
回避した瞬間見えたのは、僕の頭があった場所で空を切ったチェーンソーだった。
おいおいおいおい、ジェイソンかよ!?
いきなり首ちょんぱとか怖すぎるわ!
「君の相手は俺だ」
ジェイソンとは正反対の好青年がチェーンソーを構えてそう言った。
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