034.修行と助言
カレーを食べ終わり、しっかりと洗い物をしてから(翔子に「後片付けくらいできるわよね?」と凄まれた)僕は一人山の中で物思いに耽っていた。
時刻は20時。
消灯時間まであと3時間。
翔子との約束の時間まであと3時間10分。
べ、別にそんな告白とか期待してないし、うん多分きっと。
あれで翔子は結構悩みをうちに秘めるタイプだからきっと何か悩んでいることがあるのだろう。
で、僕が山の中で何をしているかというと、端的にいえば修行だった。
晩御飯を食べているときに、麗花のお母さんがこう言っていた。
「網代山は他の場所と比べて、「教科」の力が出しづらい環境なの。土地の性質上ね。もっと詳しい理由は別にあるんだけど、今はどうでもいいわ。つまり、「教科」の修行にはもってこいの場所ってことよ」
全く、誰も彼もが説明が大雑把すぎる。
だが、教科の使いずらさは僕も感じていた。
普段通りであればもう少し影に対して善戦できていたはずだったからだ。
「てぶくろをかいに」
「水の東西」
「握手」
僕は立て続けに言葉は発する。
辺りが雪に覆われ、手には赤いてぶくろ。
かと思えば、てぶくろは消え、噴水とししおどしが両手に装備される。
そして両手から噴水とししおどしが消え、万力となった僕は、平手打ちの要領で周りの木々を薙ぎ払う。
うーん。
実は結構悩んでいた。
僕が今まで使ってきた技って基本、誰かを援護したり、状況を変えたりする力だからなぁ。
羅生門は今のところ門が出て防御するだけだし、水の東西も本質は「二項対立」だし、握手は物理攻撃。(しかもほんとはルロイ修道士めっちゃ優しい人だったし)
もし相手が毒とか炎とかだった場合攻撃手段がない。
と、いうわけで一人こそこそ新しい力を試しているというわけだ。
来月は教会試験もあるし、それまでになにか攻撃系の力を試しておきたかった。
「影は泉君に攻撃手段の弱さという気づきを与えたようですね」
「……その声は、麗花のお母さん?」
「はい、絢辻綾香と申します、娘がお世話になっています」
「あ、いえいえこちらこそ……」
何これ、懇談してるみたいだ。
「えっと、さっきの言葉の意味って……」
「言葉の通りです、泉君は攻撃手段が弱い、逆に味方を援護することにおいては非常にいい力を持っていると思います」
「……僕は……一人でも戦いたいんです。誰かを守れるように」
「素敵なことですわ。意思が強いのですね。私は麗花と同じで教科は英語です」
「英語ですか」
「ええ、こうやって、shadow」
そう綾香さんがいうと僕が戦った影が現れる。
「みなさんの影を作り出していました。英語と国語は本質は同じ「言語」です」
麗花も同じようなことを言っていたな。
「泉君が補助技寄りなのは、「戦いたい」より「守りたい」という意思が強いからなんでしょうね。素敵なことです」
「でもそれでは、異教には立ち向かえない」
「その通りです。ですが、一人で立ち向かう必要はないのですよ?」
言われてハッとした。
考えてみれば教会の人たちは異教を捕まえようとしている。
僕は何か自分が主人公のような気分でいた。
全然そんなことはないのに。
「まあ、そうは言っても攻撃手段は必要ですね。「影」なんて攻撃手段としても防御手段としてもかなりいいかと思います。英語と国語は性質がよく似ています。私にこれくらいのことができるのですから、きっと泉君はもっとすごいことができますわ」
「…簡単に言ってくれますね」
「はい、麗花がつばをつけている男の子ですから。それくらいはしてもらわないと」
案外、悪い気分じゃなかった。
誰かから期待されるのも悪くない。
「では私はこれで失礼します。頑張ってくださいね」
「ありがとうございます、綾香さん」
綾香さんはスッとまるで幽霊みたいに消えていった。
幽霊の噂が立つ理由がわかった気がした。
さて、ヒントももらったし、消灯時間まで頑張ってみますか。
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