032.握手と地図記号
握手。
それは友好の証であったり、コミュニケーションの一つでもある。
もちろん僕だってそうだ。ルロイ修道士もそうであるはずだ。
ただ一つ違うのは彼の握力が「万力」よりも強かったこと。
このワンフレーズのおかげで僕は『握手』を忘れずにいれた。
中学生の僕はひねくれていたので(今も結構ひねくれている自覚はあるが)ルロイ最強じゃんとか思っていた。
他の人とは違う思い入れを持つことができた。
粉々に砕かれた妖刀に驚きを隠せない峯岸。
「初めてその凛々しい表情が崩れたな、峯岸」
「……村正を防いだくらいでいい気になるなよ」
「地図記号、「桑畑」!」
峯岸の周りに桑畑がそびえ立つ。
なるほど、白地図だから、自由に地図記号を加えて地形を変えることができるわけね。
便利な力だ。
だけどそんなもの無意味だ!
僕は両手の人差し指をせわしく交差させ、打ちつける。
「峯岸、これがなんの合図かわかるか?いや、覚えているか?」
「知らないな」
「じゃあ教えてやるよ、これは「危険信号」だよっ!」
言い終わるや否や、僕は両の手を思いっきり横に振る。
まるで「平手打ち」のように。
バキバキバキっと、轟音が響く。
ルロイ修道士の力を纏った僕の平手打ちは、巨大化し、桑を全て薙ぎ倒した。
「!?ぐっ……!?」
「これなら見えていようが見えていまいが関係ないだろ、白地図は真っ白なだけ、峯岸の存在自体が消えるわけじゃないから攻撃は当たるんだろ?」
「地図記号、「病院」」
峯岸の脇腹にクリーンヒットしたはずの攻撃のあとがみるみるうちに癒えていく。
病院は回復する場所ってことね。
なんでもありかよ、ずるいだろ。
「次は本気でいく、構えろ、泉」
「こいよ、もう構えてるぜ?」
僕はもう一度、両手の人差し指をせわしく交差させ、打ちつける。
「地図記号、「交番」!」
「くらえっ、「万力」の平手打ち!」
「y=1/x」
パァァァンと僕と峯岸の攻撃がグラフによって弾かれる。
この能力は……。
「反比例はバリア以外にも相手を隔てることもできるわけさ。二人とも熱くなりすぎ。もう15分はとうの昔に過ぎてるよ」
あ、そうか、15分っていう時間制限をルールに加えたんだっけ。
忘れてた。
「ふぅ、二谷がここで割って入ってくるということはうちの倉本はやられたんだな」
「その通りっしょ」
「べ、別にやられてなんかないんだからねっ」
誰にそのツンを発揮しているんだ。
「峯岸、これは引き分けってことでいいのかい?」
「そういうことにしておいてあげよう、さ、行くぞ倉本」
「ちょ、ちょっと、置いてかないでよ!」
峯岸が倉本と去っていく。
「泉君、あのまま戦ってたら勝ててたかい?」
「もも、もちろんさ」
ぶっちゃけ負けてたかもしれない。
かもしれないだけかもしれないが。
「まあ、残った人数でいえば俺らの勝ちっしょ!さ、飯飯、早く下山するっしょ!」
もともとこっちの人数の方が多いだろうが。
まあいいさ、初めての技も試せたしな。
僕は二谷と快斗の後を追って下山することにした。
山頂に残っている生徒は誰もいなかった。
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