028.ゴーストと耳
「全く、あなたと対峙するのは久方ぶりですね」
明石は絢辻ちゃんのお母さんを知っているかのような口ぶりで話す。
「久しぶりなのでゆっくりお茶でもしますか?」
「私はゆっくりなんてしたくないわ」
絢辻ちゃんの性格はお母さんに似ているようだ。
「アルコールランプ」
炎は勢いを増す。
「影ができなければあなたは攻撃できないでしょう?」
「弱点は克服するものよ」
そう言うと、絢辻ちゃんのお母さんは、
「ghost」
と言い放った。
炎の中に、黒いモヤがかかる。
「なるほど?本物の「幽霊」であれば影など必要ないわけですね?」
幽霊が明石の体にまとわりつくように蠢く。
「surround」
「ガスバーナーっ!」
まとわりついた幽霊に炎のレーザーが放たれる。
「無駄です。幽霊はいつでもどこにでも現れる。炎で焼き切ることは不可能です」
「そうみたいですね。絢辻さんともう少しお話ししていたい気持ちもありますが、そろそろ目的も達成した頃でしょう」
「目的?なんの話?」
「私は隠し事が大好きでしてね、お教えできません。それでは海崎さん例の話、ゆめゆめお忘れなきよう」
そう言うと明石は、
「熱気球」
フワッと浮かび空に消えていった。
「網代山から出ていってくれただけでもよしとしましょう。麗花、それに海崎さんお怪我はありませんか?」
「ないよお母さん」
「ありません、ありがとうございます」
私は丁寧にお礼を言い、
「絢辻ちゃんのお母さんが幽霊の正体なんですね?」
と問いかけた。
「その通りよ。小室先生に毎年頼まれてるの。一年生を鍛えてやってくれってね。それで影を使って生徒にちょっかいをかけてたの」
なるほど、いわゆる戦闘訓練のようなものか。
確かに自分自身と戦うことは、弱点とかも見つけられていいトレーニングになるかも。
「それに影には監視機能もあってね。何かあったらわかるの。だからさっきは海崎さんにすぐに私が駆けつけられたわけ」
影は生徒を守るためのものでもあるってわけね。
なかなか使い勝手が良さそうな力だな、と率直に思った。
「さて、麗花と海崎さん、他の生徒はもう山頂にいるわ。影に捕まらなかったのはあなたたち2人だけ。麗花が良く話してくれる泉君もついさっき、影によって山頂に運ばれたわ」
「ちょ、お母さん」
「……ふーん、杏ちゃんの話を良くするんだ〜?」
「そんなことはないわ」
いつもの絢辻ちゃんのように毅然とした態度でクールに答えているが、耳が赤いのを私は見逃さなかった。
「さ、いきましょう」
「ちょっと待ってよ、絢辻ちゃん!」
私は絢辻ちゃんの背中を追うかたちで山頂に向かって歩みを進め始めた。
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