027.スカウトと影
やっぱり都市伝説なんかじゃなかった。
ほんとにきた、スカウトが。
「……拒否したらどうなるのかしら?」
「別にどうもいたしません。異教の力にならないのであれば、「脅威」として排除させていただくだけかと」
怖かった。杏ちゃんのお姉さんを倒したこの男が怖かった。
敵を撃ちたいという感情よりも恐怖が勝っていた。
「そう怖がらないでください。見込みがある程度にしか思っていませんから。スカウトを蹴ったくらいで脅威に認定はしませんよ」
私は喋らない。
いや、威圧されて喋れない。
「いい異教徒に育ちそうだったので声をかけたんです。ここで断っていただいても構いません。あなたの教科が育ったらまたお声かけしますよ」
落ち着け。
要するに私は異教へのスカウトを受けているが、力そのものではなく潜在能力をかわれたということか。
「……私は、異教には入らないわ。教会に入るのよ」
「それはそれは、非常につまらない解答ですね」
明石が一歩私に近づく。
私は一歩後ずさる。
「icicle」
緊迫した状況を破ったのは絢辻ちゃんの声だった。
「別に私は戦いに来たわけではないのですがね」
余裕綽々と言わんばかりに明石はつららをかわす。
「……怪我はない?」
「……大丈夫、攻撃されたわけじゃないから。絢辻ちゃんこそなんでここに?」
「海崎さんのところの影が無くなったって、お母さんが言ったから」
ええと?話が飲み込めない。
「どういうこと?」
「説明はあとで」
絢辻ちゃんは明石に向かって構え直す。
「blizzard」
一瞬にして吹雪に変わったかと思いきや、
「アルコールランプ」
吹雪は溶け落ち、周りは火の海に変わる。
「icicle」
これは……相性が悪いのだろう。
絢辻ちゃんの攻撃は氷や雪、明石の攻撃の主体は炎だ。
「……blizzard」
今度は天候を変えるのではなく、炎をかき消すかのように吹雪は明石の方へ飛んでいく。
「だから無駄だと……」
「一瞬だけど炎が消えて「影」ができてますよ?」
「!?」
「shadow」
私を攫おうとした黒い影が鎌のように鋭く、はやく明石の脇腹を切り裂いた。
「お母さん!」
目の前で起こることを私はただただ見ていた。
ようやく理解が追いついてきた。
幽霊、いや影の正体は絢辻ちゃんのお母さんの異能の力だったんだ。
それで、そのことを知っていた小室先生は「影に拐われないようにできるだけ遅く登ってくるように」って言ったんだわ。
「網代山で異教に好き勝手はさせないわ」
絢辻ちゃんのお母さんはそう言い放って明石と対峙した。
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