021.屋上とお供
「そう怖い顔をしないで、別に悪い意味ではないわ」
僕だってただウッキウキで屋上にきたわけではない。
多少の警戒心はあった。
スカウトの都市伝説、見せ合い後とくれば、こんな話になるのではないかとは思っていた。
「絢辻さんは教会と異能、どちらのスカウトなんだ?」
「どちらもハズレよ。泉君。自惚れないで」
辛辣だった。
「去年の今頃、私、誘拐されたの」
「え?」
「その時助けてくれたのが泉先生だったわ」
なるほど、教会関係だけど助けられた側って感じか。
「憧れたわ。私の目には英雄に映ったの。だけど泉先生は休職なさったわ。泉君なら何か知ってるんじゃないかと思って」
呼び出された理由がわかった。
絢辻になら事情を説明してもいいかもしれない。
そう思って僕はねぇちゃんが異教から僕と翔子を守ってくれたこと、異教の理科主任に瀕死の状態に追い込まれたこと、病院に入院してることなんかを話した。
「そう……。やっぱり泉先生は誰かを守っていたのね」
そういって絢辻は微笑んだ。
「やっぱり絢辻さんは笑った顔の方が似合うよ」
絢辻は少し耳を赤らめ、
俯きながら、
「麗花…」
「え?」
「私の名前よ、麗花でいいわ」
やはりモテ期かもしれない。
僕は少しだけそう思った。
「それで、私教会試験受けようと思っているの」
「絢辻さんも!?」
絢辻は少し不服そうな顔をした。
「あ、いや、麗花……も?」
僕の方が恥ずかしかった。
「泉先生が教会の人だから泉君も教会の人かとと思ったんだけど、違うのね」
「逆スカウトって感じか。でも、僕も麗花と同じ入りたい側だよ」
どうやら、麗花は教会に入りたくて僕に声をかけたようだった。
スカウトの噂は予想以上に広まっているっぽいな。
「試験は6月。一緒に受けに行きましょ?」
「願ったり叶ったりだよ、僕も知ってる人がいると心強いや」
何より、ねぇちゃんが憧れられているのが嬉しいかったし誇らしかった。
「約束よ?」
「もちろん」
「それじゃ、そこに隠れて話を聞いている人にも伝えておいて」
「え?」
屋上への出入り口から翔子がジトーっとした目線を送っている。
幼馴染こえぇよ。
「それじゃまたね、泉君」
僕の方は君づけかよ。
「僕も名前で読んで欲しいんだけど?」
「……考えておくわ」
麗花は華麗に髪をなびかせながら屋上から出ていく。
一瞬麗花に目をやってから翔子が僕の方へかけてくる。
「杏ちゃん!なんでもないって言ってたのに!嘘をつくのは杏ちゃんのよくないところ」
「いや、それはなんというかその……」
「言い訳しない!杏ちゃんのよくないところ」
よくないところ祭りだった。
「いや、ほんとにやましいとことは(ほんの少ししか)なくて、一緒に教会試験受けようって言われただけだよ」
「絢辻ちゃんが……ふーん」
翔子は疑い深かった。
「私も受けるから」
「え?」
「一緒に受けるから!いいよね?杏ちゃん?」
鬼気迫る感じだった。
「い・い・よ・ね!?」
「はい」
一体僕はこの短期間で何回「え?」って言えばいいんだよ。
翔子はにこっと笑って、
「じゃあそれまでに教科の力高めなきゃね、がんばろうね杏ちゃん!」
まったく、幼馴染は怖い怖い。
と、同時に心強くもあった。
教会試験までに誰にも負けないくらいに強くならなきゃな。
そう思いながら僕と翔子は屋上を後にした。
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