019.てぶくろと雪解け
絵本が好きだった。
小さい時にねぇちゃんがよく読んできかせてくれた。
僕は何度も何度もねぇちゃんにせがみ、読んでもらったことを覚えている。
『てぶくろをかいに』はよく読んでもらっていた絵本の一冊だった。
僕は、狐の坊やの純粋さが好きだった。
帽子屋さんの暖かい心が好きだった。
人間のお母さんも狐のお母さんも同じ、暖かい心が好きだった。
つららも吹雪も粉雪に変わり、当たりは白銀に包まれた。
どうやら絢辻の「つらら」と「吹雪」の英単語への思いより、僕の「てぶくろをかいに」への思い入れの方が強かったようだ。
「……素敵です。ですが、これは攻撃……ではないのでは?」
「いや、これでいいんだ」
「……?」
「吹雪がやみ、つららがなくなれば、絢辻さんに近づける、それに」
「その赤いてぶくろしてたらつららも出せないでしょ?似合ってるよ、絢辻さん」
「!?」
僕はゆっくり絢辻へと近づく。
絢辻が言っていたパーソナルスペースへと。
絢辻は動かない。
絢辻は自分の両手にはまっている赤いてぶくろをじっと見ている。
ていうか、ちょっと耳赤いし、なんなら目を合わせてくれもしなかった。
え、何?
これ、もしかして照れてる?
絢辻ってそういう感じのキャラなの?
「gravity」
ベキョっと、嫌な音がして絢辻のバッジが潰れた。
自分で自分のバッジを割ったのだ。
「え、なん……で?」
「あなたの思いの方が私より強いのがわかったから。私に勝ち目はないわ」
いや、僕が言うのもなんだが、十分あると思う。
つららや吹雪以外の攻撃方法もあるだろうに。
「私、人見知りだから。みんなから近寄り難い、クールとか雪女みたいとか、ずっと言われてたの」
控えめに言って、絢辻への褒め言葉だと思うが、本人はそうは思わなかったらしい。
「だから自分に合うと思ってそんな意味の英単語を選んで使っていたのに、あなたは……」
「こんな暖かい雪もあるのね」
そう言って絢辻は笑った。
まるで雪を溶かすような屈託のない笑顔だった。
「その表情の方が絢辻さんには似合うと思うよ」
「…………」
顔を背けながら絢辻は姿を消した。
控えめに言ってとても、とても綺麗だった。
さて、これで残るは二谷が戦ってるやつ1人だけか。
切り替えて二谷に合流するか、と考えていると、
「白地図」
「……え?」
白銀の景色が真っ白に変わる。
文字通り、何もない「真っ白」に。
何もわからないままに、僕のバッジは割れた。
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