017.やられた側と無表情
私と陽菜ちゃん、武田君が小室先生のところにワープしてきたのはほぼ同時だった。
「何よ!武田までやられちゃったの!?もうっ、知らないっ!」
とんでもないツンっぷりだった。
「いやぁ、あの菅原ってやつただのせっかちだと思ってたら、意外に鋭かったんだよ。針と糸にも気づかれちまった。だけどいいやつだよ」
「なんでそんなことわかるのよ?」
「毛利元就のこと知ってたし、戦国大名に詳しいやつに割るやつはいないよ」
とんでもない理論っぷりだった。
もしかして武田君、馬鹿なの?
「バカじゃないの?」
私が思ったことを陽菜ちゃんは口に出していた。
「今のところ私たち1-Aが優勢と思っていいのかしら?」
「そいつはどーかな?」
私の質問を受け流すように武田君が答える。
「俺らのエースはまだゲームオーバーになってないし、それに」
「それに?」
「あの子も残ってるから私たちの勝ちね」
今度は陽菜ちゃんが割って入る。
「あの子」
「ほら、覚えてない?見せ合いの最初に私が針を刺して、武田が矢を打ったでしょ?」
「うん」
「その後、落ちた矢が飛んでこなかった?」
「あ……!」
「その犯人がまだ残ってるから」
「そう……なのね」
「ほらグラウンドの中央!その犯人がいるぜ?」
私は言葉の通りグラウンドの中央を見た。
私は友達が多い方だけど、まだ話しかけられてない人もいる。
中央で戦っている彼女もその1人だった。
華奢で美人。長い黒髪にクールな佇まい。
絢辻ちゃんだ。
その絢辻ちゃんに対峙しているのは……
「……え!?杏ちゃん!?」
「へぇ、絢辻と戦ってるのは「杏ちゃん」っていうのか」
「彼女と互角に戦ってるなんて彼もなかなか強いのね」
2人はそれぞれの思いを口にする。
「もう、杏ちゃん、無理だけはしないでよ?」
私はそう思い、呟き、戦いを見ていた。
おいおいおいおい、反則だって!無理無理無理!
僕はというと、グラウンドの中央で美人なロングヘアーの子から攻撃を受けていた。
「ちょ、ちょっと待って!待ってって!」
その子は待ってくれなかった。
「gravity」
そう彼女が叫ぶと僕は彼女の方へ引き寄せられる。
「羅生門!」
「gravity」
門ごと彼女の方へ引き寄せられる。
無表情で英単語連発されても怖いって。
「icicles」
彼女は両方の手の上に小さなつららを持っていた。
つららを見るとねぇちゃんを思い出す。
ねぇちゃんもつらら使ってたっけ、懐かしい。
彼女が手のつららをこちらへ飛ばす。
バキョっと言う痛そうな音をたてながら、羅生門は粉々に砕けっちった。
いや怖いって。
ねぇちゃんのつららより何倍も怖い気がした。
「ずっと無表情怖いんですけど!美人が台無しですよー」
「icicles」
つららが僕を襲う。
……言葉、通じてますか?
「華奢で美人で素敵なそこの人ー、名前ぐらい知りたいな」
(ちょっと、杏ちゃん!誰ふり構わず女子に声をかけないで。杏ちゃんのよくないところ)
そんな脳内の翔子の声を振り払い、
「ほ、ほらせっかく美人さんと戦うんだからさ、名前くらい教えてよ」
すると、ピクッと、若干、ほんの若干だが頬を赤らめ、
「……麗花……絢辻麗花」
そう聞こえた。
「声まで可愛い、絢辻さん、もう少し手加減してもらう……なんてことは?」
「しないわ。gravity」
手加減は微塵も感じられなかった。
毎日更新を目指します!
感想、評価、ブックマーク、なんでも励みになってます!
よろしくお願いいたします。