159.呼称とあたかも
おまえは俺を意外とハンサムだと思ったことが……あたかもしれない。
銀木犀を覚えているのはこの物語を読んだからでしかありませんよね。
学校が終わると僕はねぇちゃんがいる病院まで走った。
余談だが僕はあまり走るのが早くない。
だけどマラソンは嫌いではなくて、持久力はある方だと思う。
筋トレとかも嫌いじゃない。
なんていうか自分をレベルアップしてるみたいで。
厨二っぽい考え方なのは重々理解しているが、ゲームをたくさんやって成長してきたこの頭脳はそういう風にしか考えられない。
自分の体を痛めるのが嫌いじゃないとかMかよ。
というわけで早くはないが病院へは走り続けた。
「おや、お久しぶりです。泉先生。まずは呼吸を整えてください。ここは病院ですよ?そんなに息を切らしていてはゆっくりお話もできません」
いつだって天野先生は正論パンチをかましてくる。
反論の余地はなかった。
「…ふぅ。もう落ち着きました。でも天野先生、ここには泉は2人いるんですよ?泉先生という呼称だと紛らわしくないですか?」
「それもそうですね。ですがあまり気にしてはいません。2人とも自分のことを故障されてわからないほど知能は低くないでしょう?従って泉先生という呼称で良いのです」
この人はナチュラルに人の神経を逆撫でするのが上手いと思う。
僕じゃなかったらきれてるかもしれない。
「杏介をあまりからかわないでくださいよ!それで天野先生、話の続きを」
「ああ、失礼。泉先生も来たことですし、改めて、先日主任会がありまして、異教を迎え撃つことになりました」
「それで?」
「おや、驚かないんですね。泉先生。あたかも知っていたような顔をしていますよ。ふむ。星の花が降るころにお思い出しますね。ちょうどこの季節だ」
いや、「あたかも」でその話が頭に浮かぶのは国語に精通してる人だけじゃないだろうか?
案外みんな覚えているものなのかな。
「話がそれました。2つにチームを分けるのですが」
「防御壁と教科異能刀ですよね?」
「……やはり泉先生は鋭い。僕の代わりに国語主任になる世界線もあたかもしれない」
笑えないギャグだった。
「それで泉先生には私と一緒に防御壁を守るチームについてきてほしいのです」
「それはどっちの泉先生ですか?」
「もちろん、あなたですよ。お姉さんはまだ戦線に復帰できる状態ではありませんから」
「じゃあなんでこの話をするのにここを選んだんですか」
「泉先生が泉先生に話をする手間が省けるではありませんか」
結構合理的な理由だった。
ていうかやっぱり僕とねぇちゃんが同じ呼ばれ方するのややこしいわ。
「それはもちろん、ていうか天野先生の指示なら聞かざるをえないんですけど、チームはどういう編成なんですか?」
「じきにわかります。迎え撃つ場所は京都。教会国語支部」
「ということはやっぱり、天野先生、先生が防御壁を作った張本人なんですね?」
「……じきにわかります」
天野先生は少しだけ、ほんの少しだけ広角を緩め、そう言った。
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