014.まち針と水の東西
『水の東西』に『宇治拾遺物語』の絵仏師良秀。
仮止めに三本の矢(毛利元就)、覚えていますか?
懐かしくないですか?
大人の方は当時の記憶を
まだ習ってない方はこんなの習うんだー
って思いながら読んでいただけると幸いです。
あまりに突然すぎる出来事で僕は、僕たちは動けなかった。
やられたっ……と思い目を瞑る。
こんなことされて目を開けていられるやつは人間じゃない。
……恐る恐る目を開ける。
あれ?やられてない。
あんなに針が刺さったイメージがあったのに。
ともかく動かないと!次の攻撃が来るかもしれない。
そう判断した僕は左に逃げようとした。
が、動けない。
「なんでっ!?」
「仮止めは動きを止めるもの。動けなくて当然よ!武田!」
「おうよ!三本の矢!」
今度は無数の矢が飛んでくる。
三本じゃねぇのかよ。
落ち着け、とりあえずこの状況を打破しないと。
あの女子は「仮止め」と言っていた。
ん?そうか!動けない原因はこれかっ。
「絵仏師良秀!」
僕がそう叫ぶと弱々しい火が僕たちを包む。
なんて弱い火だ。僕の古典知識はこんなものか。
自暴自棄になりそうだが、今はそんな余裕はない。
これでいい。
これで僕たちの服を縫い合わせていた糸は燃えた!
あとは、
「二谷!」
「分かってるよ、y=1/x!」
二谷のバリアが矢を防ぐ。
正確には防ぎきれず何人かのクラスメイトのバッジが壊れる音がした。
「出端をくじかれっちまったな」
唯一、あの針の中で動いていた快斗が話してくる。
「1-Bの奴らいい連携してるっしょ」
「そんなセリフを自分たちの連携を考えてるやつが言うか?」
そんなことを話していると、
「gravity」
地面に落ちたはずの針と矢が僕ら目掛けて飛んでくる。
おいおいおい、これまずくないか。
針で動きを止められ、矢で攻撃。
しかもよくわからないが追尾で攻撃なんてよ!?
「面白くなってきたっしょ!風速10m!」
針と矢の中、快斗が敵陣目掛けて突っ込んでいく。
せっかちにも程があるだろ。
「羅生門」
まずは体制を立て直す。
それが先決だ。
僕は門をはり、攻撃を防ぎつつ思考した。
ん?周りを見渡すとクラスの半分くらいの人が小室先生のところへ瞬間移動していた。
……なるほど?
バッジが壊れるとゲームオーバーで担任のところへ飛ばされる仕組みね。
死ぬ危険はないという安心感と一瞬でクラスの半分がやられたという絶望感が渦巻いていた。
「おい二谷」
「なんだい泉君。余計なことなら後にしてくれるかな」
「なんでだよ。こんなときに余計なこと話しかけるわけないだろ」
「それで、何?なんか作戦でもあるの?」
「おうよ、今から僕と翔子が仕掛けるから合わせてくれ」
「泉君らしい曖昧な指示だね。頑張ってはみるよ」
頑張る。数字が全ての理系には程遠い言葉だった。
「翔子!」
「オッケー杏ちゃん!」
「水の東西!」
僕がそう叫ぶと、左にはししおどしが、右には噴水が出現する。
「そらよっと!」
僕は、両方を1-Bへと向ける。
右側から勢いよく水が噴射される。
「バタフライ」
翔子はその水に乗って敵陣へ乗り込む。
左は……
「なるほど、水の乱反射ね、泉君にしては考えてるじゃないか」
「y=x²!」
光弾が相手目掛けて飛んでいく。
さっきのおかえしだ。
快斗と翔子が敵陣目掛けてつっこんだことと、二谷の水による乱反射での光弾により、相手も半分くらいはゲームオーバになったはずだ。
これでまだ互角……
その頃、
「なかなかいいコンビネーションだが、個人の力量はどうかな?」
「当然!全部俺らの方が上っしょ!」
「水に流れてやってくるなんて、なかなか風情があって素敵ね」
「あら、ありがとう。まち針でちまちま動きを止めるあなたほどじゃないわ」
1-B側でそれぞれ菅原と武田が、海崎と倉本が対峙していた。
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