142.病室と心配
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10月9日、午前9時。
平との約束まであと15時間。
平泉に行くには十分な時間だ。
僕はそそくさと家を出る。
別に旅行ってわけでもないし、任務ってわけでもない。
だけど気楽な気持ちにはなれなかった。
ちょっと早めに家を出たのは病院によるためだ。
ねぇちゃんには正直に言うべきだと思ったからだ。
なんならねぇちゃんは天野先生の直属の部下なので防御壁について何か聞いているかもとも思った。
ん?
待てよ?
ねぇちゃんが天野先生の部下ってことは僕はねぇちゃんの部下ってこと?
まあ主任以外に明確な役職がないのであれば僕とねぇちゃんは同じ平社員ってことになるが、流石に年季が違いすぎる。
年の話をするとねぇちゃんは怒るのでこんなことは言わないが。
そんなことを考えながら病室の扉をノックする。
「はーい。どうぞ」
「おはようねぇちゃん」
「あら、杏介。おはよう。珍しい時間に来たもんだね。その様子だとどこかへ行くのかな?」
さすがねぇちゃん。
なんでもお見通しって感じだ。
「うんちょっとね。平泉まで行ってこようかと」
「平泉?なんでまたそんな場所に?1人で行くの?」
「ちょっと知人と会う約束をしてるんだ。1人で行くけど、平泉で合流するから2人で行動することになるかな」
「ふうん。それでその知人とやらとは何をするの?」
「ちょっと探し物」
「探し物って?」
「あー、えーっと刀?」
「なんで答える側が疑問系なのよ」
「僕もよくわかってないんだ。ねぇちゃん教科異能刀って知ってる?」
「そりゃ知ってるわよ。この国に教科の力があるのはその刀が原因だってことくらいしか知らないけど。ていうか教科異能刀なんて実在するの?都市伝説の類かと思ってたけど」
「まあ都市伝説を確かめに行くって感じかな」
「そっかそっか。無茶はしないでね」
「わかってるよ。あ、それからもうひとつ。防御壁について何か知ってることはない?」
「杏介は天野先生からどこまで聞いたの?」
ねぇちゃんにしては珍しく強い口調だ。
僕は慎重に、言葉を選ぶ。
「……なーんにも。まだ時ではないって教えてくれないんだよ」
「……そう。じゃあまだ知るべき時じゃないんでしょうね。天野先生なんでもお見通しだからね。そうやって言えば杏介が防御壁について自分で調べるところまで計算してるのかもね」
「やっぱり僕が防御壁について調べてるのもバレバレ?」
「バレバレだよ。私に防御壁について聞く時点でもうバレバレ。でも正直私もあまり知らないわ。杏介よりは少し知っているとは思うけど。そこは年季の差かしら」
ねぇちゃんの口から年の話が出るとは。
意外だ。
「大丈夫、自分で答えを探すから」
「そう、繰り返すけど無茶はしないでね」
「無茶して僕を守ってくれたねぇちゃんから出るセリフとは思えないな」
「無茶をすべき時とそうじゃない時があるのよ。あまり心配をかけちゃダメよ」
「それも、わかってるよ」
「わかってないわよ。翔子ちゃんによ?」
「……わかってるよ。行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
僕は不思議な気持ちで病室を後にした。