011.視察と二谷兄
二次関数を使うなら一次関数を使うのではないか。
薄々思っていたことだった。
そして、二次関数は曲線、連射できるボウガンのような性能だった。
では、一次関数は?
直線なら剣のような性質なのではないか?
「予想が当たってくれてよかったよ」
「なっ…!?」
二谷が戸惑うその一瞬の隙を翔子は見逃さない。
「ストレートっ!」
翔子から豪速球が飛んでいく。
いけるっ!
「…y=1/x」
パァーンという派手は音が響き、翔子の攻撃は弾かれる。
…なるほど、反比例のグラフは攻撃を遮断するのか。
「おい、翔子!この前試した「あれ」やるぞ!」
「オッケー杏ちゃん、任せといて!」
「水の…」
「ストップ、ストップ、もういい、おしまいだ」
僕の声は二谷に遮られる。
「降参、降参だよ」
「…は?」
「今日僕が君たちに声をかけた理由は二つ。一つは単純に、僕の教科の練習。もう一つは」
たっぷり間を置いて二谷は言った。
「君たちがどれくらいの力なのか知りたかったのさ。ほら、適度に敵意があった方が手加減しないでしょ?」
両手をあげ、いたずらし終えた子供のような顔で二谷は笑った。
「…それで?話を聞かせろよ、二谷」
「そうせかさないでくれ、菅原君じゃあるまいし」
僕たちは近くの公園に来ていた。
ベンチに3人腰掛けて話をしていた。
並びは左から二谷、僕、翔子。
翔子は二谷君が真ん中の方が話を聞きやすいと主張したが、僕が断固拒否した。
理由はない。…いやほんとに。
「5年前、僕の兄が姿を消したんだ。兄は高校2年生だった」
「家出ってこと?」
「違うさ、兄の教科の力はすごかった。当時小学生だった僕でも分かるくらい。それくらい強い力を放っていたよ」
「それがお兄さんが消えたのとなんの関係があるの?」
「その朝、兄は「今日は見せ合いがあるんだ」って楽しそうに話して家を出た。帰ってはこなかったけど」
「…なるほど、それで最初のスカウトの話に繋がるわけね」
「そう。時折手紙をくれるんだ。スカウトされたこととか今やってることとか。兄がどこに居るかは分からないからこっちからは手紙の出しようがねいけどね」
ええと?つまり?
翔子と二谷が僕を置いてどんどん話を進める。
要するに、二谷の兄が消えたのは「見せ合い」での「スカウト」が原因ってことか。
「二谷のにぃちゃんが見せ合いでスカウトされて、そのままどこかで活動してるってことね」
「まあまあ当たり」
僕の理解力ではまあまあらしかった。
数学の教科使ってるのに「まあまあ」とか言うな。
「私と杏ちゃんの力を見てどうするの?なんの意味があるの?」
「僕はね、兄を探してるんだ。兄は見せ合いでスカウトされた。だったら僕も見せ合いでスカウトされれば兄に近づけるかもしれないでしょ?そのためにクラスの中でも強そうな2人の戦力を見ておきたかったんだよ」
二谷の顔からは僕と同じような雰囲気を感じた。
二谷の心情はなんとなくわかる。
僕がねぇちゃんを追いかけているように、二谷はにぃちゃんを追いかけているのだろう。
「ほら、味方の力を知っていた連携とかできてアピールできるかもしれないだろう?」
「え、まじ?見せ合いってそんなにクラス同士でバトルっぽくなるの?」
字面からはほんわか自分の「教科」を見せるだけにしか読み取れないが…。
「小室先生も言ってただろう?「高め合うことが目的だ」って」
僕は「傷つけ合うことが目的じゃないとも言っていたぞ」と心の中でつぶやいた。
くそ、ちょっとは他のクラスの敵情視察でもしておくべきだったか?
まぁ人間誰しも新しい力を身につけたら、競い合うものかもしれないな。
いい意味でスポーツ、悪い意味で戦争。
見せ合いは捉え方によってどちらとも取れるからなぁ。
などと、国語の力をもっているものらしく物思いに耽っていると、改まって翔子がきりだす。
「それで、二谷君、あなた肝心なことを言ってないわ」
「肝心なことってなにかな?」
「あなたのお兄さんは教会と異教と、どっちにスカウトされたのよ?」
「異教だよ」
二谷の顔から心情を読むことはできなかった。
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