106.ひび割れと予感
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「え、じゃあ早くその船を追いかけないと!」
「確認と修復の方が先です。すれ違ったということは防御壁の周辺にその人物はいないということでもあります。泉先生は先程言った通り周囲を捜索してひび割れている箇所は見つけてください」
「見つけてどうするんですか?」
「何でもいいです。ひび割れに対して国語の教科の力を使用してください。それで直ります」
??
「何でそれで防御壁が直るんですか?」
「そういうものなんです。深くは考えないでください。そしてこのことは他言無用でお願いしますね」
「はぁ。わかりました」
「ではまた結果をお知らせください。お待ちしています」
そこで電話は切れた。
全く、結構天野先生も隠し事が多い人だな。
「電話の内容的にまた杏ちゃんが船になって防御壁に沿って調べる感じ?」
「ああ、そうなりそうだ。『ふねくんのたび』!さ、行こうぜ翔子、早いとこ終わらせちまおう」
僕たちはまた航海に戻った。
「しかしもう10分くらい防御壁に沿って航海してるけどひび割れどころか景色も全く変わらないわね」
「そりゃ海だし?景色が変わらないのは当たり前じゃないか?それに防御壁に沿ってるから船に出くわすこともないし。そう考えたらやっぱり対面から船が来たところで変に思うべきだったな」
「済んだことをとやかく言ってもしょうがないじゃない。変わらないことで悩むの杏ちゃんのよくないところ」
全くだ。
「……ん?おい翔子。ようやく変哲のない景色は終わりそうだぜ?」
そこには確かにひび割れた防御壁が存在した。
「確かにこれはひび割れね」
道路のひび割れを想像するとわかりやすいだろうか。
何かの力が加わったと思われる部位からピキピキとひび割れが発生していた。
僕と翔子が攻撃してもびくともしなかったのに。
相当な攻撃が入ったのだろう。
「それで杏ちゃん?見つけたはいいけどどうすればいいの?」
「ああ、天野先生の話によると国語の教科の力で攻撃すればいいらしい」
「国語の教科で?」
「うん。それで直るんだってさ」
「へぇ、不思議ね。でも何で国語なのかしら?」
「さあ?まあ攻撃すればいいんだろ?水の東西!」
シュルルルル
「おお、攻撃が防御壁に吸い込まれてひび割れが小さくなったぞ!?」
「本当に国語の教科でひび割れが直っていくのね。不思議だわ」
「水の東西!」
シュルルルル
何度か繰り返すうちに、ひび割れはなくなり、なんの変哲もない防御壁へと戻った。
「なぁ翔子、思ったんだけどさ」
「うん、何?」
「この防御壁、教科の力で作られてるんじゃないか?それも国語の」
「??どうしてそう思うの?」
「だっておかしいじゃん、翔子が攻撃しても傷はつかない。僕が攻撃しても傷がつかない。これは単純に僕たちの教科の力がその防御壁を作った人物の教科の力に劣っているからじゃないか?」
「それはそうかもしれないけど」
「それに国語の教科の力が加わると防御壁が修復されるってことは同じ国語の力でできてるってことなんじゃないのか?」
「もし仮にそうだとして、何がどうなるのよ?」
「それは……」
「作った人物に心当たりがある、そう言いたいのでしょう?」
「!?」
気付けば一隻の船が近づいていた。
すれ違った船だ。
船の中から僕の心中を的確に言い当てたその声は僕の耳には恐ろしく聞こえた。