000.プロローグー教科と異能ー
それでは皆々様、ごゆるりとお過ごしください。
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「譲れない教科を一つ、それだけで守りたいものを守れるから」
高校生になると教わることが増える。なんとなく自覚していたことが目の前で現実になるとビビる。
それは、教科の「使い方」。1人ひとつ選択できて、自分だけの異能となる。
例えば校長先生は「数学」の先生だった。
「見ていてください」
入学式の挨拶はこの一言から始まった。
「縮尺変化」
そういうとみるみるうちに校長先生が座っていた椅子が小さくなる。
手のひらサイズになった椅子を拾いながら、
「みなさんが義務教育を終えて最初に手にする力がこれです。」
そう言うと、椅子は元の大きさに戻った。
いや、大きくなり続け、僕たち入学生の真上に…。
「この「教科」の力は絶大ですが、ひとたび使い方を間違えると周囲に危害が及びます。教科を私利私欲のために使おうとする人があとをたちません。そのことをくれぐれもお忘れなきよう…。」
僕だけではない、その場の全員が息を飲むのがわかった。
これからの高校生活で手にする力の絶大さと危うさを校長先生は説いているのだ。
入学式が終わるともちろんHRだ。僕の担任、かつ姉でもある泉みずきは「国語」の先生。式が終わり、今も空中に文字を羅列し、「国語」ができることを説明してくれている。
「高校生になると自分の専門分野を決めて教科の使い方を学びます。文学や言葉が好きなら国語、数字が好きなら数学という感じ!」
「自分の好きな教科を明日までに決めておくこと。それが高校生初日の課題です!」
僕はなんの教科を選ぼうか…そう悩んでいると、いや悩もうとした瞬間、轟音とともに教室の窓が吹き飛んだ。
「おいおいおい、マジか!?」
激しい炎が教室を包み、防火扉が閉まる音がする。
しかし僕たちは目の前の人物に釘付けだった。
1人は、教室を火の海にした張本人と思われる長髪の男。
もう1人は、その男と対峙する形で僕たちの前に立っているねぇちゃん。
穏やかで優しく、いつも笑っていたがまるで表情が違う。
「大丈夫!私の後ろにいて」
そう言うとねぇちゃんは言葉を発する。
「冬は、つとめて。雪の降ふりたるは、言ふべきにもあらずっ!」
そうねぇちゃんが叫ぶと爆炎の中に雪が舞う。
その雪は刃に形を変え、長髪の男へと飛んでいく。
男が避けると同時に言葉を発する。
「内炎っ!!」
さっきよりも激しい炎が熱波が飛んでくるのがわかる。
…内炎?確かにそう聞こえた。
確か理科で習ったはず。炎には炎心があって、内炎と外炎があると。
外に行くほど温度が上がる。
…と、言うことは、
「ねぇちゃん!避けて!!」
単純にさっきより強い炎ということだろう。
咄嗟に判断できた自分を褒めたいが、炎を受けて立っているのはねぇちゃんだ。
「大丈夫!見てて」
「白き灰がちになりて、わろし。」
瞬間、炎が灰になり、雪の刃が男を襲う。
「…譲れない教科を一つ、それだけで守りたいものを守れるから」
ねぇちゃんはそう言うと倒れた男に背を向けて笑顔でそう言った。
熱波も雪も嘘だったかのように消え、残ったのは凍りついた教卓と焼き焦げた教室だけだった。
僕はこの時、感覚で理解した。校長先生の言葉の意味を。
雪崩れ込むように他の先生たちが駆けつけ、事態の収拾を図った。
「リペアー!」
おそらく技術の先生だろう。教室をもとに復元している。
「謎の男が1-Aを襲撃したが怪我人はいなかった。」
校長先生は外部に向け発信する準備をしている。
クラスのみんなの反応は多種多様だった。
目の前の担任の姿に怖がる人。
自分に危害が及ばなくて安心している人。
「こんなこともできるのか」と凄んでいる人。
「せんせー大丈夫?」「先生かっこいい」なんて声もクラスメイトからあがっている。
「…お姉さんすごかったね」
幼馴染の海崎翔子が僕に話しかける。
「あぁ、ねぇちゃんがこんなにすごい人だって知らなかったよ」
僕はなんてことないように答えたが内心ドキドキしていた。
「異能」は日常生活でよく見かけていた。水を作り出して飲む人、炎を出してタバコに火をつける人。
それくらい当たり前に日常生活の中にあるものが戦いの場では凶器となっている。
その事実とねぇちゃんがそれを使いこなして戦っていた事実に驚きを隠せない。
その後は警察が来たり救急車が来たりと忙しそうに先生たちは動いていたが、入学生は一斉下校となった。
僕は翔子と帰りながらこれからの高校生活のことを考えていた。
こんなことが頻繁に起こって果たして僕は対処できるのだろうか…。
「…そんな怖い顔して考えてても意味ないよ」
翔子の声で顔をあげる。
「昔っから考えすぎるのが杏ちゃんのよくないところ!明日から教科の授業も始まるし、私たちもあんな風に使えるようになるよ」
その通りだった。
「それに杏ちゃんが危ない目に遭ったら今度はお姉さんじゃなくて私が守ってあげるから」
「ありがと、頼りにしてるよ」
屈託のないその言葉に幼馴染のありがたさを感じつつ歩く。
「じゃあまた明日ね!」
「おう、また明日」
「譲れない教科を一つ…か」
僕は何を選ぼうか。
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