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セルジュ

 ラースル辺境伯をはじめ、シオンやココたちは一方的に磨り潰されていくホランド将軍の部隊をただただ見つめていた。有る者は自業自得だと蔑む目で。有る者は王国軍の凄惨さに目を覆いながら。


 シオンは冷たい目でホランド将軍とカベンディッシュ子爵の最期を見届けていた。志は高かったが、現実と見合っていない男たちだと。シオンはそう思っていた。


 ただ、最期は立派だったとも思っている。戦士たるもの、かくありたいものだ。


「さあ、次はオレたちの番だぞ! この城に一斉に敵兵が襲い掛かってくる。防衛の準備を急げっ!」


 シオンが活を入れる。傭兵も孤児兵も慌ただしく動き始めた。それに釣られてラースル辺境伯の兵も準備に熱が入る。残った兵は一万二千。将の数も――有能か無能は置いておいて――三十人は居る。


 守り切れる。ラースル辺境伯はそう思っていた。城内の備蓄も人数が減った以上、消費するペースは緩やかになる。もう少し堪えれば帝国が何らかの行動を起こしてくれるのだと。そう信じて。


 しかし、ここでシオンの予想を裏切ることが起きた。それは王国軍が攻め込んでこないという事実である。今、勝利して勢いづいているのは間違いなく王国軍だ。だというのに一両日経っても攻めてこない。


 また罠だろうか。帝国兵の心に影が差す。ただ、王国が攻めてこないことは帝国にとっては嬉しい誤算であった。兵力で劣っているのは帝国だ。士気も帝国の方が劣っている。


「あの、ご主人様。なんで王国は攻めてこないんですか?」


 ココがシオンに尋ねる。しかし、シオンもその答えを持っていない。


「さぁな。砦を築いてるってことは、そこまでの領地で満足したんじゃないか?」

「この城を落としたら、それ以上の領地が手に入りますよ? しかも、城も付いてきますし」

「この城を落とすのはそう容易じゃないぞ? 城を落とすには三倍の兵力が必要だからな。四万弱の兵を連れて来なきゃ……」


 自分でそう呟いてはたと気が付く。まさか王国軍は援軍を待っているのではないだろうかと。まだ王国内に余剰兵力はあるはず。


 そして八千の帝国兵を亡き者にしたと聞けば増員が送られ、一気呵成に攻め立てられてもおかしくはない。そうすればシオンも無事ではないだろう。


「ココ、偵察に行けるか?」

「えぇっ! この中をですか!?」


 明らかに嫌そうな顔をするココ。それもそうだ。まだ包囲は続いているのだ。この状況で出て行ってもあっさりと捕まるのがオチである。捕まったらと考えると、身震いするココ。


「あの……差し出がましいようですが、ボクに偵察に行かせてもらえませんでしょうか?」


 その時である。横から口を挟んできた少年が一人。年の頃は十五くらいだろうか。彼の目には力強い炎が宿っているように見えた。シオンがため息を一つ。


「そいつは困ったな。オレとしては心意気を買いたい。だが、信の置けない者を偵察に出すわけにはいかない。わかるか?」


 情報は命綱だ。それを信頼できない者に探って来いと命令して持ってきた情報を信じられるだろうか。偵察とはそれだけ重要な仕事なのである。そのことに気が付いたココはひっそりと頬を緩めた。


「もちろん理解しております。ただ、ボクは今ならば安全だと思うのです」

「どうしてそう思う?」

「ホランド将軍が奮闘してくれたからであります、閣下」

「もっと詳しく」

「はい。王国は失態を犯しました。あの場面は包囲して殲滅する場面ではありません。兵士の為に逃げ道をよういするべきでした。それをしなかったため、王国側にも甚大な被害があることかと」

「なるほどな。心の折れた兵卒の逃げ道を用意しなかったから、彼らまで死に物狂いで戦った結果、被害が大きくなった、か。なるほど、面白い考察だ。それで動けないのか」

「はい。負傷兵を抱えれば抱えるほど動けなくなるのが軍ではないでしょうか」


 少年はさも軍隊というものをわかりきったような口をきく。そして少年の発言は筋が通っている。これを採用するかしないか。将としてもシオンの裁量が求められていた。


「お前、名前は?」

「セルジュと申します、閣下」

「わかった。オレはお前を信じよう。オレに有益な情報をもたらしてくれ」

「閣下が心配なのであれば私の妹を差し出しましょう。一つ下の妹も孤児兵として徴収されています。それを――」

「いや、良い。オレはお前を信じると決めた。それ以上も、それ以下もない。任せたぞ、セルジュ」


 シオンはセルジュの肩を軽く二度叩く。そしてセルジュに全てを任せ、シオンは立ち去って行った。セルジュは小さく「……はい」と返事をしただけ。


 信用してもらえたのに返事に元気は無い。それは、彼が信用ではなく信頼を求めていたからであった。

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