王国の罠
数日間、平穏な日が続いた。王国軍の攻撃も緩く、睨み合うだけの日が続いていた。偵察は既に城を離れたのだろうか。シオンはそんなことを考えていた。その時だった。
城内が沸いた。どうやら何かが起こったようだ。その何かとはもちろん偵察に出た兵士が戻ってきたということだろう。戻ってきたのはグロウェルの部隊であった。
すぐに諸将が呼び集められる。もれなくシオンも呼び集められた。どうやらラースル辺境伯とホランド将軍は報告を受けているようであった。その表情から、良い報告ではないことをシオンは察していた。
「もう一度報告を」
全員が集まったところでラースル辺境伯が偵察に出ていたクロウェルに同じ言葉をと促す。クロウェルは頷いてから、自身の目で見たことを話し始めた。
「この城の北に巨大な砦が築かれつつあります。五千人ほどの兵士を動員して、もう三割ほど完成しておりました」
そう言って地図のある一点を指差すクロウェル。ラースル辺境伯の城から北に進むこと一キロほどの地点である。そこに東西に長い砦を築いているというのだ。
これに騒然とする帝国陣営。この報告が本当なのであれば由々しき事態である。帝国の領地を併呑しようと実効支配に乗り出したという証左に他ならないのだ。
「このまま指を咥えて見ているとあれば、皇帝陛下の威厳が損なわれる! 今こそ打って出て砦を玉砕してやろうではないか!」
そう声高に発したのはホランド将軍だった。確かにこのまま砦を築かれて困るのは帝国軍である。しかし、ラースル辺境伯はどこか違和感を覚えていた。
「お待ちを。判断は双方の兵が戻ってきてから行う取り決めでは?」
「そんな悠長なことを言ってる場合であろうかっ!」
ラースル辺境伯とホランド将軍が睨み合う。この一触即発の城内にタイミング良くホランド将軍の兵が戻ってきたのである。そして、ラースル辺境伯の送り出した部隊と同じ報告をした。
「これで決まりである! 王国の奴らは賤しくも領土を掠めんと砦を築き始めた。兵を分散している今ならば我らが兵力で打ち破れること間違いなし!」
意気軒昂にそう宣言するホランド将軍。それに待ったをかけるのがラースル辺境伯であった。彼が覚えていた違和感の正体が白日の下に晒されたのである。
「おかしい!」
「何がでしょう?」
叫び立ち上がったラースル辺境伯を面倒臭そうに対応するホランド将軍。もう彼らの中では打って出ることが決定事項になっているようだ。
「どうして斥候に出た兵士たちが無傷で戻ってきているのだ。誰一人、欠けることなく!」
言われてみればその通りである。あれだけ厳重に包囲されていたのだ。するりと抜け出して易々と戻ってこれるわけがないのだ。つまり、これは王国側の仕掛けなのである。事は遡ること数日前になるのであった。
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