帝都で軟禁
【東暦 一〇〇五年 三の月 十二の日】
紫苑一行は無事、何事もなく.彼ら彼女らが所属する帝国の帝都に到着することが出来た。紫苑もこれには拍子抜けである。絶対に何か起きると思っていた。そのまま彼女の屋敷に向かう。
ちなみに御者は居ない。出発してすぐの最寄りの街で解放してしまったのだ。小銭を握らせて。もちろん口止め料込みだ。今頃、殺されてなければ良いがなんて思う。
ボロボロの幌馬車が貴族の住宅が密集している高級住宅街に入っていく。あまりの似つかわなさに逆に人目を引いているようであった。その馬車が大公の屋敷に入っていった。周囲の人間は不思議そうな顔をしている。
「止まれぃ!」
案の定、大公屋敷の門で直立している門番に制止をかけられる。しかし、御者台に乗っている人物を見て制止を解いた。そう、大公令嬢であるロメリアの護衛長であるグレンダだったからだからだ。
「し、失礼いたしました!」
「構わん。門を開けよ。ああ、それから全員を呼び集めてくれ。御当主様も頼む。お嬢様のお帰りだ」
「は? ……ははっ!」
ロメリアの帰還。それを聞いた門番は笑みを浮かべ、門を開けてから屋敷の中に入っていった。それだけ嬉しかったのだろう。また、ロメリアが愛されている証拠でもある。
紫苑はやっと報酬が貰える。そう思っていた。しかし、あからさまな不審者だ。そう簡単に解放、信用されるわけがないだろう。紫苑は屋敷の、それも地下に軟禁された。
武器は取り上げられていない。監禁でないだけマシというものである。紫苑は自分にそう言い聞かせる。
それからというもの、あれこれと大公の家来に根掘り葉掘り聞かれる。誰なのか。どういう経緯で一緒にいたのか。何が目的で一緒にいたのかを。そのどれにも紫苑は嘘偽りなく答えた。
「名前は紫苑。千住渡紫苑だ。あ、紫苑が名前な。やってきたのは違う世界……まあ、遠い国からだ。ダチと昼寝していたらお宅のお嬢様が襲われていたので、全くの善意から手助けしてここに至る。報酬さえ払ってくれればそれで構わねぇよ」
別に疚しいことはない。紫苑としては早く解放されることを願うばかりである。しかし、一日が過ぎ二日が過ぎても解放されることはなかった。
生活には不便しなかった。食事も普段食べているものより上等な食事が出てくるしベッドもふかふかだ。しかし、息苦しさは否めない。稽古して食って寝るだけの生活だ。
そんな地下生活ではあるが、なぜか待遇はそれなりに良かった。それはロメリアが何度も足を運んできたからである。もちろん護衛のグレンダ付きでだ。
ロメリアが紫苑に会いたいと駄々を捏ねたのだろう。そして粗雑な扱いをしていると怒られる可能性があるため、表面を見繕うために待遇を良くしたのである。
ロメリアは紫苑のプライベートなことを根掘り葉掘り聞いてきた。どこで生まれたのか。そこはどんな場所だったのか。どんな生活を送っていたのか。紫苑はそれにも嘘偽りなく答える。
「オレが生まれたのは日本っていう、あー、なんだ。すごく遠い場所だ。そこで学生、勉強したり訓練したりしていたんだ。後は祖父から剣術を教わったりだな。そこからこの国に来て、かれこれ二年ってとこか。ああ、そうだ。そんな毎日だったよ」
遠い目をする紫苑。どうやら昔を懐かしんでいるようであった。紫苑はもうすぐ二十歳になるのだ。最初、この国、この世界に来た時は途方に暮れたものである。
着の身着のまま、刀一本で飛ばされてどうしろと言うのだろう。しかし、紫苑は諦めなかった。自分のできることを探し、食い繋ぎ、今日まで生き延びて来たのだ。
「学校に通っていたのですか。では、エリートなのですね。かく言う私も淑女学校を卒業していますよ」
「はは、そうかい」
そう言って自慢気に胸を反らすロメリア。紫苑は適当に相槌を打ちながら、この世界にも学校があるのかと感心していた。なぜ感心したのか。それは文明レベル的に学校はないと想定していたからである。
紫苑の体感では十世紀前後の文明だと考えていた。だが、冷静に考えてみるとかのアリストテレスもミエザで教鞭をとっていたのだ。ならば学校くらいあってもおかしくはないだろう。
ロメリアの他愛もない話を聞かされ、今日も一日が終わる紫苑。いつまで待たされるのか。段々と辟易してくる。そして思う。アンバーの言うことを素直に聞いておけばと。
その度に紫苑は頭を振って後悔を打ち消す。もう少ししたら大金が手に入るのだ。そうしたら何処かに土地でも買って優雅なリタイア生活をしよう。そう思い込む。
グレンダに早くこの場所から出してくれと催促するも出来ないと突っ撥ねられる。いつまで居れば良いのかと訊ねても知らぬ存ぜぬの一点張り。ただ、時が過ぎるのを待つ他ないのであった。
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