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長旅の準備は入念に

 このままバレラードに向かうと思いきや、シオンは帝都を出ずに街外れへと向かった。これからの長い道中を安全に移動するため、傭兵を雇おうというのである。これは賢明な判断だった。


 帝国内を高価な荷物をもって長距離移動する危険性をシオンは理解しているのだ。シオンは守る側であったし、ごく稀に襲う側も経験していた。


 幌馬車を表に止めて中に入る。シオンが入ったのは古惚けた酒場であった。その中は酒の匂いが充満していた。そして、誰も彼もが激戦を潜り抜けた猛者の顔つきであった。


 シオンはこの店に入るのは初めてだが、噂には聞いていた。帝都の外れに各地の傭兵団御用達の酒場があると。そこには質実剛健な傭兵団のお偉方が集まっていると。


「よう、紫の。久しいな。相棒はどうした?」


 シオンがマスターに話しかけようとしたとき、一人の女性がシオンに話しかけてきた。紫の、というのはシオンのことだ。五十を超え、髪を後ろでポニーテールにまとめている風格のある女性であった。


 その女性がグラスを傾ける。シオンも知り合いを見つけて安堵しながら女性に近寄った。この女性こそ、傭兵団ミゼラブルの団長であるベルグリンデその人であった。


「久しいな、ベルグリンデ。あんたと共に護衛の任務をしていたころが懐かしいよ。ってか、相棒って誰のことだ?」

「惚けるんじゃないよ。アンバーのことさね」

「だから相棒じゃないって言ってるだろ。ビジネスパートナーだ。そして利害が合わなくて別れた」


 シオンはベルグリンデにこれまでの経緯を伝えた。ロメリアを助けるかどうかでアンバーと意見が対立し、チームを解散したこと。そして、そのお陰で領地を与えられて貴族になってしまったこと。


 最後に与えられた領地に向かうために護衛が必要なことを話した。それを聞いてベルグリンデはシオンがここに来た理由を理解した。


「成る程ねぇ。いくら払えるんだい?」

「金はあるが節約したい。バレラードってとこ何だが、十人ばかし借りたい。いくらになる?」

「バレラード! こりゃまた外れを引いたねぇ。昔の誼ってことで安くしといてやるよ。日当で一人大銀貨二枚だね」


 大銀貨二枚と聞けば高値に聞こえるかもしれないが命を張る護衛の料金だ。そう考えたらそこまでの金額ではない。また、食料などは依頼者持ちである。なので食いっぱぐれがないのも傭兵からしてみれば有難いだろう。


「わかった。それで手を打とう」

「毎度あり。すぐに出るかい?」


 ベルグリンデの問いに頷くシオン。その答えを見てベルグリンデは一人の団員を呼び付けた。その者の名はコラリーという女性である。しかし、返ってくる声は芳しいものではなかった。


「コラリー。アンタ適当な奴を十人ばかし集めてコイツに付いて行きな」

「えー、アタシがっすかぁ。ダルいなぁ」


 ショートカットの髪の毛をガシガシと掻きながら大きく伸びをするコラリー。二十代半ばくらいのその女性は良く言えばラフな格好、悪く言えばだらしのない格好で体勢を変えて目を閉じる。


「口を動かす前に身体を動かしな!」

「わかったわよぅ」


 渋々と動き出すコラリー。動きは重く、一般人からしてみれば本当に戦えるのか不安に思えてくる。シオンもそんな目をしていたと思われたのか。ベルグリンデが口を開く。


「あんな奴だけどね、実力は保証するよ。紫の、アンタなら上手く扱えるだろ?」


 遠回しに厄介者を押し付けられているのではと勘繰るシオン。それならばもう少し安くしてもらいたいものである。だが、何とかと鋏は使い様だ。


「馬車には乗れないぞ」

「歩かせるよ。馬車の速度なんざたかが知れてるだろ?」


 通常の馬車の速度は徒歩よりもやや速い程度の速度だ。馬車など徒歩よりも三割増しで早い程度だろう。それであれば徒歩でも対応できるとベルグリンデは考えているようだ。


「良い機会だ。アンタが鍛え直してくれても良いんだよ?」

「だったら別で料金貰うぞ?」

「粗相があれば傭兵の契約に基づいて請求してくんな」


 そう言って笑い合うシオンとベルグリンデ。それからコラリーたちの準備が整うまで、シオンたちは酒場で時間を潰した。その時間、三十分程度だろうか。


「じゃー、行きましょーかね?」


 コラリーが十人ばかしを連れて戻ってきた。誰も彼も装備をしっかりと身に付けている。そこからシオンはしっかりと統率がとれるのだと判断していた。


「世話になったな。ベルグリンデ」

「金さえ持ってきたら、また世話してやるよ」

「なら、金が貯まった頃に声をかけるよ。じゃあな」


 軽口を言い合ってから立ち去るシオン。その横を歩いているインがシオンにこう尋ねた。


「シオンさん。なんであの女性はシオンさんのことを『紫の』って呼ぶんですか?」

「まあ、ニックネームだ。名前の由来を聞かれてな。紫の花だと答えたらそう呼ばれるようになったんだ」

「ほえー」


 馬車に戻る。そこではエメがぼーっと寝ぼけ眼で待っていた。どうやら朝が早かったため、眠たいようだ。シオンは彼女に話しかける。眠たいのならば寝てて良いぞと。

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