憂うロメリア
最後にシオンはベネットに伝え、椿油と白檀の櫛を二つ、それから銀の大衆向けのネックレスを一つ用意してもらった。これは即金で支払う。といっても大銀貨数枚の買い物だ。大した金額ではない。
それからベネットに手紙を用意してもらった。上質な紙にベネットの達筆。そのお陰でそれなりの手紙に仕上がった。それを懐にしまう。
手紙の内容はベネットに筒抜けになってしまうが、そこは商人。相手が王侯貴族であったとしても、守秘義務をきちんと守る男である。
デュポワの屋敷に帰る。インとエメの二人が帰ろうとしていたので二人を呼び止めた。そして手紙と椿油、そして白檀の櫛を持たせて家宰のゴードンにこう持ち掛けた。
「二人がロメリアお嬢様にご挨拶したいと。それだけさせてもらえないか?」
そう言われてしまっては断ることが出来ない。素性の知らないものならいざ知らず、准男爵からのお願いだ。そしてシオンも自身が怯えられていることは理解していた。
なので、害のなさそうなインとエメにお願いしようと考えたのである。最下級とはいえ貴族から貴族へのお願いだ。ゴードンには断れない。それに、この二人ならばロメリアに害をなさないだろうと直感的に判断していた。
「しょ、少々お待ちを」
ゴードンがロメリアの部屋に走る。シオンはその間に二人に感謝を告げること、そして手紙を渡すことを指示した。インに手紙を手渡す。
「ひゃ、ひゃい!」
「わかった」
インは大公の孫娘に会うとなって極度に緊張しているがエメは飄々としていた。エメは物怖じしないというわけではなく、農業の他に興味がないのだ。
一方そのころ、ゴードンはロメリアの部屋を尋ねていた。今日、デュポワは登城してしまっている。ロメリア本人に確認するしかないのである。控えめにノックをするゴードン。
「お嬢様、ゴードンめにございます」
「如何しました?」
「シオン准男爵の家臣がご挨拶したいと。お世話になったお礼とのことでしたが」
この会話を扉越しに行う二人。ロメリアは頭に疑問符を浮かべていた。シオンの家臣を世話した記憶がないからだ。むしろ、シオンという名を聞いて恐怖すら覚えるほどである。
「その、家臣の方というのは?」
「可憐な少女お二人でしたよ。そこまで恐れる必要はないかと」
ゴードンはロメリアが何を心配しているのか手に取るように理解していた。なので、安心させるようにそう伝える。ゴードンとしてはロメリアに断って欲しくないのが本音だ。
貴族同士の挨拶を断るにはそれなりに理由が居る。ロメリアも社交的ではないとはいえ、挨拶くらいは受けていただきたい。そう思っていた。ただ、大事なのは主君の気持ち。いざとなったら仮病ということにするつもりである。仮病は貴族の常套手段だ。
「わかりました。では、そのお二人をお連れしてください」
「かしこまりました」
ホッと胸を撫で下ろすゴードン。彼は急いでシオンのもとへ戻った。そして伝える。ロメリアが会うと述べたことを。その言葉を聞いてインに緊張が走る。
「ではお二方、こちらへ」
ゴードンに促され、指示される通りに歩き出すインとエメ。シオンはそそくさと自室に引っ込んでしまった。まあ、ここから先のことは彼には何もできない。
シオンは二人を信じて待つ。ただ、ここで失敗しても大きな害はない。ロメリアのご機嫌を伺えればそれで良いのだ。
シュティ大公の屋敷は勝手知ったるなんとやらである。シオンは手近に居た女中を呼びつけ、高級なワインを要求する。そしてこれからの展開を想像するのであった。
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