5 第一の側近を得る
さて、どう答えるべきか――。
俺は思案する。
俺が先王ディルダイアから『魔王の力』を受け継いだ理由――。
それを正直に話すなら、当然俺の素性も話さなければならない。
俺は人間から魔族に――それも魔王に転生した存在だということを。
そのことを正直に告げるべきか?
――否、と判断する。
いくら今は魔族とはいえ、もともとは人間だった存在が、新たな魔王として認められるだろうか?
中には、元人間である俺を見下したり、あるいは人間側のスパイだと疑念を抱く者も現れるかもしれない。
そして、さらに重要な問題がある。
俺が『魔王の力』を得た際に、ディルダイアを殺していることだ。
後の憂いを絶つために必要なことだったとはいえ、目の前にいるのはディルダイアの娘である。
馬鹿正直に『お前の父を殺した』などと言うわけにはいかない。
つまり、
・俺が元人間であること。
・俺がディルダイアを殺したこと。
この二点を言うわけにはいかない、ということだ。
それを踏まえて、どう説明すべきか――。
「どうかなさいましたか、ディヴァイン様?」
ティアがわずかに眉を寄せる。
「私の質問は、それほど答えにくいものでしたか?」
こいつは、俺を疑っているのだろうか?
それとも単なる確認事項として、今の問いかけをしただけなのか?
「俺は」
ティアを見つめる。
「流れ者の魔族だ。仲間がいたが裏切られ、殺されかけた……そのとき突然、先代魔王から『魔王の力』を託されたのだ」
「託された、と申しますと?」
「先代魔王は――人間どもによって封印された。だから、誰かに自分の力を渡そうと考えたのだ。その者に新たな魔王になってもらい、今後の魔界を治めてもらおうと」
「それがあなただと……?」
「魔王の力を受け取るには、何らかの条件があるらしいが、それは俺にもよく分からなかった。何せ先代魔王と交信していられる時間に制限があったからな。向こうもすべてを細かく説明している時間はなかったようだ」
俺が元人間という部分とディルダイアを殺したという部分を隠し、後はできるだけ事実か、それに近いことを説明していく。
嘘をつく際には、可能な限り事実を言うのが得策だ。
一から十まで嘘で塗り固めたところで、すぐに矛盾やボロが出るからな。
「……なるほど。ご事情を理解いたしました」
ティアはとりあえず納得したようだ。
「封印された、ということは、父はまだ生きているのですね。それだけでも朗報です……」
言いながら、彼女の瞳から涙が流れ落ちる。
肉親の情、か。
「では、俺からも聞かせてくれ」
今度は俺が質問する番だ。
「なんなりと」
「ティア、お前は何を思い、魔王に仕える? 何を望み、魔王に仕える? 言ってみろ」
彼女は先代魔王の娘であり側近だと言っていた。
だが、それ以外の情報を何も知らない。
どんな種族なのか。
どんな能力を持っているのか。
どんな考えを持って先代魔王に仕えていたのか。
そして、どんな考えで俺に仕えるつもりなのか。
「私は、先ほども申した通り先代魔王の娘です。そして――」
ティアが俺を見つめ返した。
「種族としては『夢魔』になります。その名の通り、他者の夢の中に入り、あるいは他者に夢を見せ、様々な効果を及ぼす――つまり精神侵食系の能力や魔法を得意としています。反面、直接的な攻撃能力は高くありません」
ティアが説明を続ける。
「続いて、私が魔王様に『何を望むか』ですが――直近の目的は魔王城を取り戻し、新たな魔王としての最初の基盤を整えることにございます」
「魔王城を取り戻すだと?」
俺は眉を寄せた。
「現在、魔王城は別の者に占拠されております」
ティアが言った。
「名をメルディア。種族は『将軍級スケルトン』――最上位のアンデッドであり、ディルダイア様の側近だった魔族の一人」
「つまり先代が姿を消したために、新たな魔王の座を狙ってきたわけか」
「恐れ多いことですが、おそらくは……」
俺の問いにうなずくティア。
「分かった。では魔王城を奪還しよう」
「ディヴァイン様……?」
「それが――俺の魔王としての最初の目標になる」
俺は厳かに宣言した。
「そして、そこからが始まりだ。俺は先代以上の力を持つ魔王として、必ず奴らを……S級冒険者を一人残らず駆逐する」
復讐を、果たすために。