2 S級冒険者2
今回のクエストは、魔王軍の前線基地に先制攻撃をかけるというものだった。
魔王軍との戦いは人類の命運を左右するものだ。
その先制攻撃となれば、大役である。
同行するのはS級1位のソル、2位のオリヴィア、そして4位のザイン。
「あは。緊張してるみたいね、ローグくん」
オリヴィアが悪戯っぽく笑う。
「そりゃ、緊張するよ……魔族との大規模戦闘なんて初めてだし……」
「大丈夫だ。主に魔族と戦うのは俺とオリヴィア、ザインの三人。君は俺たちが討ち漏らした敵の掃討が主な任務。危険度は低いさ」
と、ソル。
「は、はあ、どうも」
「それに君だってS級なんですから。普段通りの実力を出せばいいんですよ。きっと勝てます」
元気づけてくれたのは、今回が初対面となるザインだ。
見た目は優男の美少年だが、世界最高峰の格闘家である。
物腰も柔らかく話しやすい。
三人とも優しくて、おかげで俺の緊張感はだいぶ和らいでいた。
と、
「そろそろだ。見えてきたぞ」
ソルが前方を指し示す。
そこには黒い巨大な城塞があった。
魔族の前線基地――。
「あそこは長らく難攻不落と言われてきたの。けれど、あの基地を攻略すれば、魔王軍との戦況は人類側に大きく傾く」
オリヴィアが言った。
「その先にある真の作戦――『魔王封印作戦』への展望も見えてくる」
「だから、今回の作戦は必ず成功させねばなりません。人類の未来のために――」
ザインが身構える。
うう、また緊張してきたぞ……。
けど、俺だってS級冒険者なんだ。
絶対に役に立ってみせる――。
「【天使召喚】」
ソルの頭上から光り輝く人型のシルエットが降ってくる。
地上最強の生命体――【天使】。
最上級僧侶であるソルは、それらを数十単位で召喚し、己の兵隊として操られるのだという。
中級魔族ですら瞬殺し、下級魔族など触れた先から消滅していく。
そして上位魔族でさえ、【天使】の軍の前に押されていた。
「すごい……圧倒的だ……!」
「確かにソルはすごいよね。でも、あたしだってやるんだからっ」
オリヴィアが勝ち気に叫んだ。
「はああああああっ……!」
手にした鞭が――消えた。
いや、視認できないほどの超速で繰り出され続けているのだ。
「す、すごい……鞭の動きが全然見えない」
「あたしの鞭は光の速度に匹敵する――」
オリヴィアが凛とした口調で告げた。
「おおおおおおおっ!」
さらにザインが超スピードで動き回りながら、拳や蹴りで魔族を打ち倒していく。
こちらも超人的な強さだった。
三人の攻撃で、みるみるうちに魔族の軍勢が減っていく。
俺の役目は『彼らが討ちもらした魔族の掃討』なんだけど、そもそも『討ちもらし』が全然いない。
この三人だけで前線基地の魔族を全滅させそうな勢いだった。
そして――戦闘は終わった。
結局、俺の出番は二回だけ。
ソルたちが討ちもらした魔族が数体いたので、剣で斬り殺した。
といっても、そいつらも瀕死状態まで弱っていたため楽勝だった。
「はあ、S級冒険者ってすごいんだな……」
俺はあらためて思った。
この感想を抱くのは、今日何回目だろう。
みんな、あまりにも強くて感動した。
同時に誇らしい気持ちにもなった。
俺もこの人たちを同じS級冒険者なんだ、と。
「もっと強くならなきゃな」
グッと拳を握り締める。
俺の授けられた『S級』の称号に恥じないように。
そして、みんなのように魔王軍と戦い、多くの人を守れるように――。
「おつかれさま、ローグくん」
オリヴィアが近づいてきた。
「はあ、全然役に立てなかった……」
「そんなことないよ。がんばってたじゃない」
オリヴィアが微笑む。
優しいなぁ。
「ふふ、がんばってたからご褒美あげるね」
「えっ」
次の瞬間、オリヴィアの顔が近づいて来たかと思うと、
ちゅっ。
俺の唇に甘く柔らかい感触が訪れた。
「~~~~~~~っ!?」
俺は言葉を発することもできず、即座に飛びのいてしまった。
……しまった、もう少しちゃんと感触を味わえばよかった、と直後に思ってしまった。
「あれ? 思ったより初心だね?」
オリヴィアが悪戯っぽく笑った。
「もしかして……初めてだった?」
俺は思わずコクンとうなずく。
「えへへ、そっか。どう? 初めての感想」
「……びっくりしすぎて分からなかった」
「あ、初々しい。そういう反応、いいね。ますます好きになっちゃう」
オリヴィアは嬉しそうに笑った。
清楚な年上美少女、という印象だった彼女が、なんだかもっとずっと年上の妖艶な美女に見えてきた。
もしかしたら――。
この瞬間、俺は恋に落ちていたのかもしれない。
……あのときは、やがて彼らに裏切られるなんて夢にも思わなかったな。
つかの間の回想に浸り、俺はため息をついた。
いや、もう思い出すのはやめよう。
くだらない感傷だ。
大切な仲間だと思っていた気持ちは――全部幻想だった。
あいつらは仲間じゃない。
憎むべき復讐対象。
いずれ地上に出ることができたら、真っ先に奴らの元まで行き、『報い』を受けさせてやる。
特に――妹を殺した奴については、半端な復讐では終わらせない。
炎に照らされ、顔はよく見えなかったが……S級冒険者の誰かであることは間違いない。
絶対に探し出してやる。
地の果てまでも追いかけ、必ず……。
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